銀ブラ、横浜マリーナブラ

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第177回

斎藤智

土曜の昼間は、横浜マリーナのショッピングスクエア内をぶらぶら歩いて過ごしていた。

香織たちは、ショッピングスクエア内にあるブティックの店内を見てまわっていた。

「かわいいお洋服!」

「ね、フリフリが良いよね」

可愛い服が店内に飾られているのを見つける度に、皆は歓声をあげていた。

「あれ、洋子ちゃんに似合いそうよ」

「ええ、あれ?ピンクだよ。あんなにレース付いているし」

いつも、ジーンズばかり着ている洋子は、皆に言われて照れていた。

「雪もファッションとか興味あるんだ」

隆は、皆と一緒になって、洋服を眺めて喜んでいた雪に言った。

「そりゃ、そうよね。女性だもの」

麻美が隆に言った。

「でも、さすがにルリちゃんたちみたいに、あんなピンクとかフリフリは着れないけどね」

雪は答えた。

「それは私も」

麻美が雪に賛成した。

二人は、ほかの女性たちよりは、年齢が少し上なので、洋子たちに比べると、ショッピングスクエアのお店の中でも、黒とか少しシックな洋服を売っているお店のほうにひかれていた。

「そこのサンドウィッチ屋さんでお昼を買っていこうか」

ブティックのお店が立ち並ぶショッピングスクエアの向こうに、総菜を売っているお店があった。

その中のひとつにサンドウィッチ屋さんがあり、麻美は、そのお店を指差して言った。

「美味しそう」

普通の食パンだけでなく、ベーグルやフランスパンなどいろいろな種類のパンに挟まれたサンドウィッチが売られていた。

「俺、朝ごはんもサンドウィッチなんだけど…」

朝、麻美の買ってきたサンドウィッチを食べた隆が言った。

「ピザもあるよ」

店内に売られていた商品を見て、麻美は言った。

店内に入ると、テイクアウトだけでなく、店内でも食べられるようになっていた。

「ヨットまで持って帰るのも面倒だし、ここで食べていこうか」

そのサンドウィッチ屋の店内で、お昼を済ますと、午後も横浜マリーナのショッピングスクエア内を一日ずっとぶらぶらして過ごしていた。

午後はさすがに、洋服ばかり眺めているのも、あきてきていた。

ショッピングスクエアの屋上に行くと、そこにはペットショップがあって、犬や猫だけでなく、ウサギ、ハムスターの小動物以外にも馬、ミニチュアホースなどまでもいた。

「かわいい!」

ルリ子や隆、洋子などは、屋上で動物たちをなでたりして遊んでいた。

「隆。ここで皆と動物たちと遊んでいてね」

麻美と雪の二人は、皆をペットショップに残して、またブティックのフロアに移動した。

さっきは、若い女の子たちと一緒だったので、自分たちの好みの服を落ち着いて見れなかったのだ。

シックな洋服や化粧品のコーナーを眺めていた。

「ここって、いろいろな世代のお店があるショッピングスクエアだから良いよね」

「その分、一グループずつのお店は少なめだけどね」

「このぐらいがあんまり歩き回らなくても良いから、足腰弱って来た私たちにはちょうど良いよ」

「私、まだ足腰は大丈夫」

「そうよね。雪ちゃんは元気だものね。ごめん、ごめん。私と一緒にしてしまって…」

二人は、店内をぐるっと回っていた。

ヨットでファッションショー

横浜マリーナショッピングスクエアでのウインドウショッピングを終えて、船に戻って来た。

ウインドウショッピングだけで、特に何も買ってくるつもりはなかったのだが、皆の手には、それぞれ何かしら小さな買い物袋を持っていた。

ヨットに戻って来ると、買って来たものをキャビンの棚にしまった。

「さあ、夕食にしようか」

麻美がレンジの前にかけっぱなしにしているエプロンをして、ギャレーの前に立った。

「麻美ちゃん、私たちのお母さんみたい」

サロンのソファに腰掛けておしゃべりをしていた佳代と香織が、エプロンをしている麻美のことを見て言った。

「そう。それじゃ、夕食にしますからね。香織ちゃんは、何を食べたいかな?」

麻美が、子供に話すような口振りで、香織に聞いた。

「うーんとね、お母さんの作ってくれるお料理は皆、おいしいから何でもいい」

香織は、子供のような話し方で答えてみせた。

「佳代ちゃんもなんでもいいかな?」

「うーん。佳代はね、ハンバーグがいい!」

「そうか。佳代ちゃんはハンバーグがいいのか」

麻美が佳代に聞くと、佳代も子供っぽい話し方で答えた。

佳代の答え方を聞いて、佳代ちゃんの答え方のほうが子供っぽくて、私よりもかわいいと香織は思った。

「ママ。香織はね、やっぱカレーがいい!」

そう思った香織は、あわてて自分ももっと子供っぽい言い方で、麻美に答えなおした。

「香織ちゃんは、カレーがいいの?どっちにしようかな。それじゃ、今夜はお姉ちゃんの香織ちゃんの食べたいカレーにしましょうね。佳代ちゃんの食べたいハンバーグは、また今度にしましょう」

麻美は、そう言うと、カレー用の肉をまな板の上で切り始めた。

実は、ショッピングスクエアから帰って来る前に、スーパーに寄っていて、今夜の食事は、カレーにすることに決まっていたのだった。

「ええー、お母さん、佳代はハンバーグがいい!」

佳代は、わざと駄々をこねてみせた。

「佳代ちゃん、ごめんね」

香織は、お姉さんっぽく佳代の頭を撫でた。

「でもさ、香織ちゃんって今、子供っぽいお料理の代表として、カレーって言ったんでしょう」

「うん」

「スーパーで何が食べたいって聞いたときに、子供っぽいとか関係なしに、一番にカレーって答えた隆の舌って子供っぽいのかな」

麻美が言った。

「そうかも」

香織が頷いて、二人は思わず笑ってしまった。

「ねえ、見て」

フォアキャビンで着替えていたルリ子が出てきて、自分の全身を麻美に見せた。

トップスが白のフリルに、ボトムが薄いピンクの花柄のワンピースを着ていた。

「可愛いじゃない!もう着たんだ」

麻美は、ルリ子の着ているワンピースを見て答えた。

さっき、ショッピングスクエアのお店で買ってきたものだった。

「可愛いね」

「ヨットだと皆、ズボンが多いから、スカート着ていると可愛く見える」

洋子がルリ子の姿を見て言った。

「いいわよ。洋子ちゃんもスカート着ても」

「え、私はいい」

洋子は、スカートを遠慮していた。

「私も着替えてこようっと」

ルリ子の可愛い姿を見て、香織もフォアキャビンに入った。

「さっきのミニスカートに着替えるの?」

「うん」

フォアキャビンのドアを閉めながら、中から香織が答えた。

お店で見つけた紺のミニスカートに大きな金ボタンが付いていた服に着替えて出てきた。

「ズボンの下に、そのタイツをはいていたの?」

「うん。朝、寒かったから」

「下の紺のタイツの色が、ちょうどそのミニスカートにあっているわよ」

麻美が言った。

「ビール、買ってきたよ」

表の自販機でビールを買って、隆が戻って来た。

「え、ヨットの中でファッションショーしていたのか」

隆は、着替えをしていた香織たちを見て言った。

「香織。スカート可愛いじゃん」

隆は言った。

「でしょう。可愛いよね」

洋子も隆に同意した。

「ルリも可愛い」

隆は、ルリ子のワンピース姿も見て笑顔になった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。