横浜マリーナヨット教室開講

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第141回

斎藤智

日曜日、今年の新しいヨット教室が横浜マリーナで開講になった。

いつもは、おじさん、おばさん、家族連れがぱらぱらとしかいない横浜マリーナの敷地内に、若い男女がいっぱい集まっていた。

「おはよう!」

隆たちは、自分たちのヨットに乗りに横浜マリーナにやって来た。

「すごいね!今日は横浜マリーナが賑やかだね」

「本当、いっぱい人がいる」

ヨット教室に参加するために集まって来た人たちの間を縫って、隆たちは、自分たちのヨットが置いてある艇庫に移動した。

「ラッコさんは、今年はヨット教室の生徒さんを募集するの?」

「うちは一人だけ。マリオネットさんは?」

艇庫に向かう途中で、マリオネットの中野さんに聞かれて、麻美は答えていた。

「うちは、一応5人ぐらい生徒を募集してあるんだけど、果たして横浜マリーナのヨット教室運営側で、何人ぐらいを振り分けてくれるかはわからない」

中野さんは、麻美に答えた。

麻美は、少しだけ中野さんとおしゃべりした後で別れて、隆たちが先に行っている艇庫に入った。

「ただいま」

「お帰り。中野さんに捕まってしまっていたの?」

「そう、ずっとおしゃべりさせられていた」

麻美は、佳代に言われて苦笑していた。

「マリオネットも、今年のヨット教室の生徒さんを受け入れるって言っていたの?」

「うん、マリオネットさんは5人も、すごいいっぱい受け入れるみたいよ」

麻美が洋子に答えた。

「なんかかわいそう。マリオネットに振り分けられる生徒さんは」

雪が言った。

「あら、どうして?」

「だって、マリオネットって、私たちとクルージングに行っても、いつも何かトラブル起こしているじゃん」

「そうか…」

雪が答えた理由を聞いて、麻美は、中野さんのことを何か一言弁解してあげたかったのだが、良い弁解の言葉が思いつかずに黙って頷いているだけだった。

「確かに、もし私が今年のヨット教室の生徒で、マリオネットに振り分けられたら不安になるかも」

雪の答えに、洋子が言った。

「でも、中野さんは、俺よりもずっとヨット歴は長いんだよ」

隆が二人に言った。

「今年の横浜マリーナのヨット教室で、5人も生徒を受け入れるんだってよ」

後から会話に参加してきた隆に、洋子が説明した。

「マリオネットさんは、そのぐらい、生徒が増えたほうがいいよ」

隆は洋子に答えた。

「どうして?」

「マリオネットは、いつもクルーの人数が少ないから、ヨットの取り回しに困ってトラブル巻き起こしてしまうんだろう」

「そうか!だから、生徒さんがいっぱい来て、マリオネットのクルーがたくさん増えれば、トラブルも起きるのが少なくなるか」

隆に言われたのを聞いて、洋子は頷いていた。

洋子は、隆が言ったことに頷いていたが、雪は素直に頷けないでいた。

まだ、ヨットのことがわからない生徒さんばかりいっぱい集まっても、却ってマリオネットのトラブルばかが増えてしまうのではないかと思っていたのだった。

ヨット教室

午前9時、横浜マリーナのヨット教室がいよいよスタートする。

香織は、一昨年、大学を卒業して小さな会社に就職してOLをしていた。

香織の出身地は、岡山県。

通っていた大学も、岡山県内にあった。

大学4年生のとき、就職活動で東京の大手企業の就職試験を受けた。

その大手企業の試験日と同じ日の夕方に、今、香織が働いている小さな会社の試験日があったので、すべり止めのつもりで、その会社の試験も受けたのだった。

結局、大手企業の試験には、落ちてしまって、代わりにその小さな会社に就職したのだった。

実家が岡山県のため、東京のワンルームマンションを借りて、そこで一人暮らしをしながら、会社勤めをしていた。

実家も、大学も、岡山県のため、東京に仲のよい友人がいるわけではなく、いつも週末は、自分の部屋で過ごしていた。

香織の住んでいる地域は、東京といっても、神奈川県との県境にあった。

そのため、香織のマンションのポストには、東京の店のダイレクトメールだけでなく、神奈川の店の広告もよく入っていることがあった。

配布している人の間違いなのか、ときたま神奈川の県報や川崎の市報が入っていることもあった。

週末に、ヒマでポストに入っていた県報を、部屋のベッドに寝転がりながら何気なく読んでいた。

その記事の中に、ヨットに乗ってみませんかという小さな告知記事があった。

横浜にある横浜マリーナというヨットハーバーで、半年間の期間でヨット教室が開催されるというのだ。

しかも、ヨットの振興、普及のために開催されるヨット教室とかで、ヨットに乗る際の搭乗者保険として300円だけ負担してもらえれば、そのほかの費用、受講料は一切無料なのだそうだ。

参加者は、抽選で限定50名までだそうだ。

香織は、どうせ、こういうヨット教室は、応募者多数で、当たるわけないとは思っていたが、応募はハガキ一枚でできるみたいなので、応募だけしてみようと思った。

それに、せっかく海がある横浜に近い東京に住んでいるのだし、白い帆を上げて走って行くヨットなんて、ロマンチックだし一度でいいから乗ってみたいではないか。

香織は、ハガキに自分の住所、名前を書いて通勤時にポストに出した。

その後、毎日の仕事で、そのハガキを出したことも忘れてしまっていたある日、香織が仕事を終えて、会社から戻ってくるとポストの中を確認すると、横浜マリーナからハガキが来ていた。

「当たった!」

香織は、マンションのポストの前で思わず独り言を言ってしまい、側にいた男の人に変な顔されてしまった。

当日、ハガキ持参で電車に乗って、横浜マリーナにやって来た。

「こんなところにヨットハーバーなんかあったんだ」

香織は、川崎の工場地帯を抜けて、横浜に入ったところにある横浜マリーナに驚いていた。

手前にあるショッピングスクエアの中を抜けて、海側にある横浜マリーナに行った。

「こんなところにショッピングスクエアがあるんだ。今度、買い物に来てみよう」

香織は、まだ開店前のお店のショーウインドーを覗きながら思った。

横浜マリーナの正門をくぐると、クラブハウスの建物前に、ヨット教室はこちらという大きな看板が立っていた。

香織は、その看板に沿って、クラブハウスに入ると、受付のお姉さんにハガキを提出した。

受付のお姉さんは、ハガキと引き換えに、ヨット教室で使う教材をくれた。香織は、その教材を持って、2階の教室に入って、空いている席に腰かけた。

「それでは、9時を過ぎましたので、ヨット教室を開講します」

壇上にいた男性が、集まった生徒たちに向かって言うと、ヨット教室は始まった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。