この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第26回
斎藤智
洋子は、物静かで運動があまり得意そうでないおとなしい女の子だった。麻美は、最初に洋子と出会ったとき、彼女に対してそんなイメージを持っていた。
女の子らしく胸まで伸びた長いストレートの髪が、麻美にそんなイメージを持たせていたのかもしれない。ルリ子も、佳代も髪の長さは肩ぐらいまでだった。雪にいたっては、ベリーショートで大人っぽかった。麻美自身も肩より少し下ぐらいの長さだった。誰よりも髪が長く、物静かな印象がそんな先入観を持たせてしまったのだろう。
だが、
お昼にヨットを金沢港内の人工島に着岸したとき、麻美がロープを持って飛び降りて岸に上陸した後、ほかの誰よりも早く麻美に続いて上陸して、接岸の際にヨットをしっかり押さえて着岸を手伝っていた。
麻美は、きっと雪が一番に自分に続いて飛び降りてきて着岸を手伝ってくれると思っていたのだが、洋子が続いてきたので少し意外に思っていた。それ以来、彼女は、物静かな印象とは裏腹にけっこう活発なのではないかなと思いはじめていた。
次の週の日曜日、洋子は長い髪を後ろでまとめて結んで、丈が短めのジャケットに、着古したジーンズでやって来た。
「なんか先週とイメージ違う。活発そうね」
「そうですか。普段着ですよ」
麻美が言うと、洋子は笑顔で答えていた。
生徒たちにとって二回目のセイリングでは、隆はヨットを海に出し、セイリングを始めると、海上で生徒たち一人ひとりにステアリング、ヨットの舵を渡して順番にヨットの操船方法を教えていた。
初めて握るヨットの舵に最初、生徒たちは戸惑っていた。
ルリ子も舵を取ってみたが、あまりうまく取れずにヨットが大きく蛇行して走ってしまっていた。麻美と同い年の雪ならば、ほかの生徒よりも年上だし、少しは上手に取れるのではないかと思っていたが、雪もあまり上手に取れずに、後ろを振り返って、ヨットの航跡を見ると、波がS字に大きく蛇行しているのがわかった。
そんな中、洋子の番になって、舵を取ると、初めだけほんの少し隆が一緒にステアリングを握っていたが、しばらくすると一人でも上手に舵を取れるようになっていた。
「洋子。上手だね」
隆や麻美はもちろん、ほかの生徒たちからも舵が上手だと誉められていた。ヨットの後ろを振り返って航跡を見ても、波がまっすぐに直線で引かれているのだ。麻美は、その航跡を見て、もしかしたら自分よりも上手かもって驚いていた。
麻美にとって、それよりも意外だったのは、初日のセイリング時のヨットの上では、天然のルリ子と隆の会話が、ボケとツッコミでまるで漫才のようで楽しく、二人はきっと仲良しになりそうと思っていたのだったが、何回か一緒にヨットに乗っているうちに、隆と洋子が馬があうのか、話があうのか、食事のときなどでも、いつも隣り同士で座っていて、気づけば一番仲良しになっていたことだった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。