この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第3回
斎藤智
高校3年を一年間頑張ったおかげで、晴れて入学できた大学の入学式は華やかだった。
新入学の女子大生たちの晴れ着姿がとても眩しかった。
式が終わって講堂から出てくると、先輩学生たちが新入部員を取ろうと盛んにクラブ、サークルの勧誘をしていた。テニスに、野球に、サッカーといろいろなクラブ、サークルがあったが、隆はもうどこの部活に入るか心に決めていた。
隆は、白い帆が眩しいヨットの写真が載っている看板の前にいた。
そこは大学のヨット部員たちが新入部員を勧誘しているヨット部のカウンターだった。カウンターの上に置かれているヨット部のクラブ艇の写っているアルバムの写真をめくって眺めていた。470やシーラークなどヨットの前で楽しそうに笑顔ではしゃいでいる学生の姿が写っていた。隆は、さんざん写真を眺めた後、結局そのヨット部には入部しなかった。
その前日の日曜日、隆は小学生の頃からずっと通っていたヨット教室に、お世話になったヨットの先生たちのところに、大学に入学できたことを報告しに行っていた。
「それで大学にも無事入れたことだし、またヨットを始めるのか?」
隆はヨットの先生に聞かれた。隆もそのつもりでいた。そのことを話すと、もう大学生なので、子どもヨット教室に生徒として通うことはできないが、ヨット教室のOB、卒業生出身の先生として、ヨット教室のコーチにならないかと勧められた。コーチとして残って、子どもたちにヨットを教えながら、たまには自分でもヨットに乗れる、いい話だとは思ったが、隆は結局その話をお断りした。
隆は、どうしても基本一人か二人しか乗れないディンギーではなく、船内にキャビンも付いていて、行こうと思えば世界じゅうどこにでも行けるセイリングクルーザーに乗ってみたかったのだ。
ヨット教室のヨットも、大学のヨット部のヨットも、どちらもディンギーだった。それが隆を断らせた理由だった。
さて、セイリングクルーザーに乗るには一体どうしたらいいのだろうと隆は悩んでいた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。