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クルージングクラス優勝

クルージングクラス優勝

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第97回

斎藤智

「おいおい、マリオネットはすごいじゃないか!」

レースの計算をしていた望月さんが、突然大声を上げた。

「どうしたの?」

麻美が聞いた。

皆も、望月さんの声に驚いていた。

レース艇のオーナーだけに、望月さんの声は、普段でも低く大きな声をしている。大好きなヨットレースの話になると、さらに声が大きくなり、興奮してしまうのだ。

レースの計算結果を書いた紙を、皆に見せながら、望月さんは隆に言った。

「マリオネットの今回のレースの成績は、クルージング艇では一位だよ」

「本当ですか?」

隆は、望月さんに言われて、もう一度レース結果の紙を見直した。

かなり上位には、食い込めたとは思ってはいたが、まさか一位になれているとは思っていなかったのだ。

「一位か!」

それを聞いて、隆よりも、もっと興奮して喜んでしまっていたのは、マリオネットのオーナーの中野さんだった。

「マリオネットは、いつも、このぐらいの走りをしていたら、今年のクラブレースの。年間を通して、総合優勝もできたかもしれなかったな」

望月さんは、言った。

今日のレースは、一年間を通して、横浜マリーナの最後のクラブレースだった。

「よし、来年は、もっとレースを頑張ろう」

「頑張ります!」

中野さんが、自分のクルーたちに言うと、松尾さんや坂井さんたちが答えていた。

「ラッコは、来年もクラブレースは、本部艇をするんでしょう?そしたら、隆君も、レースの日は、いつもマリオネットに乗ってくれよ」

隆は、中野さんに言われた。

「どうする?佳代」

隆が、佳代に聞くと、

「レースも、けっこう楽しかったから参加してもいいよ」

佳代は、隆に答えていた。

「私も、レースって一度出てみたいな」

麻美が言って、それに雪が頷いていた。

さらに洋子も頷いていた。

「よし。じゃあ、来年のレースのときは、皆で代わりばんこに、マリオネットさんに乗せてもらおうか」

隆は、皆に言った。

「私は?」

レースの記録担当のルリ子が、隆に聞いた。

「ルリ子も、順番にマリーネットに、レースのとき乗せてもらおう。レースの記録は、そのときは他の人にやってもらえばいいだろう」

隆は、ルリ子に言った。

表彰式

横浜マリーナのクラブハウスからは、美味しそうな料理の匂いがしていた。

「なんか、美味しそうな匂いがする…」

「お腹空いてきちゃうね」

さっき、キャビンでお昼ごはんを食べたばかりだというのに、麻美が言った。

今日のレースは、今年最後のクラブレースなので、優勝者の表彰式を兼ねて、クラブハウスで小パーティーが開かれるのだった。

今日のパーティーは、横浜マリーナのショッピングスクエアに出店しているお寿司屋さんとお肉屋さんからの差し入れがあるので、料理が豪華らしかった。

「ラッコさん、手伝って」

ラッコのメンバー皆が、階段の下のところに座って、パーティーが始まるのを待っていると、上から声をかけられた。

アクアマリンのオーナーの奥さんだった。

「女性の手が足りないのよ。お料理の盛りつけを手伝ってもらえないかしら」

女性クルーの多いラッコは、アクアマリンの奥さんの後ろについて、クラブハウスの中に入ると、お料理の準備の手伝いを始めた。

「美味しそう!」

用意されている料理を見て、洋子は叫んだ。

寿司や肉だけじゃなくて、サラダ、ケーキなどサイドメニューも豪華な料理が並んでいた。

肉については、大きな塊がそのまま、クラブハウスの天井からぶら下がっていて、差し入れてくれた肉屋の店長が、そこから包丁で薄く切って焼いていた。

バーカウンターには、ワインやシャンパンなどが陳列されていた。

高級なウイスキーやバーボンまで用意されていた。

「それではパーティーを始めます」

レースの参加者だけでなく、レースに参加していなかった船のオーナーさんやクルーも集まって来て、理事長の挨拶をスタートに、パーティーが始まった。

差し入れてくれた寿司屋や肉屋が紹介されて、パーティーが始まると、肉屋の焼いているコーナーには、お皿を持って肉を待つ人の行列で、いっぱいになっていた。

「隆、なにを飲む?」

「俺、ビール」

「せっかく、もっと高級な飲み物があるというのに…ビールだなんて」

麻美は、カクテルを手にしながら、いつものビールを飲みながら食事している隆に苦笑していた。

パーティーのさなか、表彰式が始まり、理事長の手から優勝カップや表彰状が、優勝艇に手渡されていた。

今年の総合優勝艇の表彰の前に、まずは今日のレースの優勝艇の表彰があった。

レーシングクラスの表彰に続いて、クルージングクラスの表彰があり、マリオネットのオーナーの中野さんが壇上に呼ばれた。

中野さんは、初の表彰台に笑顔で立っていた。

「さすがだね、隆君。隆君が乗ったから、マリオネットは勝てたんでしょう」

中野さんが、表彰されている姿を見ながら、隆の側に寄って来たクラリネットのオーナーが、隆に言った。

「そんなことないですよ」

「彼女、すごいよね」

クラリネットのオーナーは、隆だけでなく、佳代の存在を褒めていた。

隆から佳代は、今年からヨットを始めたばかりのヨット教室の生徒だと知らされると、なおさらに驚いていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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