千葉の保田へ

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第133回

斎藤智

隆は、3月の連休をどこにクルージングに行くかで悩んでいた。

社長室のパソコンで、さっきから三崎漁港のホームページや千葉の観光案内のホームページを開いては、眺め続けていた。

「千葉のマザー牧場もいいな」

隆は、ルリ子や佳代が、マザー牧場の牛や羊に顔をなめられて、きゃーきゃー言っている姿を想像しながら、ニヤニヤしていた。

「マザー牧場だったら、千葉の保田がいいかな」

社長室のデスクに頬を突きながら考えていた。

「ね、隆。どっちが良いと思う?やっぱり松下さんの会社かな。それともニューベンチャーかな」

麻美は、自分のデスクのパソコンで、両社の見積もりデータを比べながら、隆に聞いた。

「隆なら、どっちにする?」

社長デスクで、なんだか上の空の隆に、麻美は再度聞いた。

「ね、隆は今、何の仕事しているの?」

麻美が、隆の側に寄って来て、隆のパソコンを覗き込んだ。

隆は、麻美が近づいてきたのに気づいて、あわてて千葉の観光案内ホームページの画面を閉じた。

「なんの仕事している?」

麻美が、隆のパソコンの画面を覗き込んだ。

隆のパソコンの画面には、昨日、企画会議でやっていた新しく始めるWEBサービスの企画書が開かれていた。

「ああ、そっちの企画書の件をやっていたんだ。その企画面白そうよね」

麻美が、それを見て答えた。

「だろ?このサービスなら皆、どんどん登録して利用してくれると思うんだ」

隆は、自分の企画、提案したサービスを自慢した。

「ここのところで利益が出るようにしておけば、会社としても良いだろう」

「確かにそうよね。でも、ここのところはユーザサービスと連動させたほうが、会社として利益ももっと出せるんじゃない」

「確かにそうだね」

隆と麻美は、しばらくの間、その新サービスの企画のことで打ち合わせていた。

「それで、さっき、麻美が言っていたどっちが良いかって何の話だったの?」

一通り、新サービスの打ち合わせが区切りついたところで、隆は麻美に聞いた。

「ああ、あれね」

麻美は、隆がマウスから手を離したそのすきに、隆のパソコンのマウスを奪って、さっき話しかけたときに、隆が、さっと隠した画面を開いた。

「なあに?やっぱりね、この千葉の観光案内のホームページは」

麻美が隆に聞いた。

「あ、これは…。その、今度の新企画の下調べで…」

隆は、麻美にうまく答えようとして、言葉に詰まっていた。

麻美は、何も言わずに、そんな隆のことを黙って見つめていた。

「今度の連休のクルージングは、ヨットでどこに行こうかなって思ってさ。千葉なんか良いかなって思って」

隆は、正直に麻美に答えた。

「さっき、麻美に聞かれたときも、千葉の保田と三崎のどっちに行きたいか聞かれているのかと思って、思わず保田とか答えそうになっていたよ」

「あら、そうなの。答えそうになっただけで、答えていなくて良かったわね。答えていたら、私にぶっ飛ばされていたよ」

麻美は、隆に答えつつ、

「千葉なら、横浜マリーナから行くにも近くて良いんじゃない」

麻美が、隆の案に賛成してくれた。

「でも、今は仕事中だから、こういうのは、お昼休みとか家に帰ってからにしようね」

「はーい」

麻美に言われて、隆は素直に返事した。

「それじゃ、連休は保田にしようか!」

「だから、そっちの話ではないでしょう、今は」

麻美が隆に言った。

「そう、そうだね」

隆は、慌てて机の上の書類を見直していた。

「松下さんのところも良いんじゃないかな」

「そうだよね」

麻美は、隆に答えた。

「松下さんのところは、会社じゅうのスタッフ皆で、一生懸命いろいろやってくれるものね」

「予算的には、こっちの方が安いのか・・」

隆は、ニューベンチャーの見積書を確認していた。

「まあね。だけど、松下さんのところとは、付き合いも長いし」

「そうだよな」

「やっぱり、そういうのも大事じゃない」

麻美と隆は、書類を見比べながら悩んでいた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。