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館山

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第86回

斎藤智

三連休の土曜日の朝、ラッコのメンバーは横浜マリーナに集まっていた。

「おはよう」

皆が集まると、ラッコが置いてある艇庫の中に行き、出航準備を始めた。

「ルリちゃん、今日どこに行くかちゃんと知っている?」

洋子は、ブームの上のメインセイルを準備しながら、ルリ子に聞いた。

「千葉でしょう。千葉の勝山」

ルリ子が答えた。

「それは明日でしょう。今日は館山に行くんだよ」

「館山?」

「館山は、千葉の房総半島の先端のところを少し内側に入ったところにある町なんだよ」

ルリ子は、千葉の勝山に行って翌朝、レースに出場している暁さんの応援をするとしか聞いていなかった。

「レースは日曜だから、今日は、館山に行って、そこで一泊してから、勝山に戻ってレース観戦しようと思うんだ」

隆が、ルリ子に説明した。

レース観戦が終わったら、そのまま勝山の漁港に入れて、そこで一泊して次の日に、横浜マリーナに戻って来ようという予定だった。

「館山か。初めて行くところだから、どんなところか楽しみ」

ルリ子は、隆に言った。

館山は、房総半島の一番先端にあるので、横浜から行こうと思うと、けっこう距離があった。

ラッコは、マリーナスタッフにクレーンで降ろしてもらうと、出航した。

横浜マリーナを出ると、まずは、三浦半島の観音崎を目指すことになる。

観音崎を越えて、久里浜の先まで行ったところで、千葉を目指して東京湾を横断することになる。

大型のタンカーや貨物船、旅客船の合間をぬって、横断し終わったら、さらに房総半島沿いに南下していく。

やがて、房総半島の先に大きな白い灯台が見えてくる。

洲崎の灯台だ。

灯台の手前の湾を内側に入って行くと、その湾の一番内側、右側に漁港がある。これが館山の漁港だ。

ラッコは、その漁港に入港すると、手前のところにある岸壁に停泊した。館山の漁港は、漁港といっても、漁船だけでなく、地元のヨット乗りが所有しているヨットも何隻も停泊していた。

静かな夜

ラッコは、館山港の岸壁に静かに停泊していた。

「ごはん、できたよ」

キャビンの中から呼ぶ麻美の声で、乗員たちは、キャビンのサロンに集まった。

横浜マリーナを朝、出航して、館山に到着したのが夕方近くになってしまった。

これから、少し遅め、だいぶ遅めの昼食だった。

昼、航海中に軽くおにぎりやお菓子をつまんでいたとはいえ、皆、お腹がぺこぺこだった。

「いただきます」

お昼は、パスタだった。

ミートソースとカルボナーレのソースが用意されていて、それぞれ好みのほうのソースをかけて食べていた。

隆は、両方のソースを半分ずつにかけて、ふたつの味を両方とも味わっていた。

皆、お腹が空いていたせいか、作ったパスタは、見事にきれいに無くなっていた。

「ごちそうさま」

「なんか、今回のクルージングは静かだな」

食事が済んで、皆は、キャビンのサロンで一息ついていた。

「本当だね。なんか静かかも…」

確かに、いつものクルージングよりも話し声も少なめかもしれなかった。

「ルリちゃんが、おしゃべりしていないせいかな?」

「私?私って、そんなおしゃべりかな」

「ルリちゃんだって、おしゃべりってわけじゃなくて、陽気で明るいのよね。私、ルリちゃんの明るいところ大好きよ」

麻美が、ルリ子の頭を撫でながら言った。

「マリオネットがいないからだよ」

隆は、苦笑しながら言った。

「マリオネット?」

「いつもだと、マリオネットと一緒にクルージングしているから、エンジンが停まったとか、動かないとかって、いろいろ話題を作ってくれているじゃない」

「あ、それはあるかも」

洋子が、隆の言ったことに賛成した。

「もう。そんなこと言って。中野さんに怒られるわよ」

麻美が、隆の頭を軽く叩きながら苦笑した。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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