この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第217回
斎藤智
「今日は、お天気が気持ちいいね」
「連休の最終日になって、やっと快晴だね」
ラッコのデッキ上で皆は、話していた。
今朝、ラッコ、マリオネット、ドラゴンフライの三艇は、船の中で一泊していた三崎港を朝早くに出航すると、横浜マリーナを目指してセーリングしていた。
三艇とも、横浜マリーナに上架保管しているヨットだ。
連休最終日ということもあって、明日からは仕事なので、その前に母港に戻って、明日の仕事に備えようというのだ。
きょうの天気は、快晴。
波もなく、そこそこの風でヨットは、順調に、横浜マリーナを目指して走っていた。
「ああ、戻ったら、明日から会社だね」
ルリ子が言った。
「最後のクルージング日だから、思い切り楽しまなくちゃ!」
香織も言った。
「まあ、でも、来月の初めになったら、もっと遠くに長い期間、クルージングに行けるじゃん」
洋子が言った。
「そうだよね。来月は夏休みのロングクルージングがあるものね」
「ロングクルージングってどこ行くの?」
今年から初めて横浜マリーナのヨット教室で、ラッコのヨットに乗り始めた香織が聞いた。
「伊豆七島」
「伊豆大島とか新島、式根島とか伊豆の島々を巡るんだよ」
皆は、香織に説明した。
「なんか楽しそう!楽しみ♪」
香織は、皆から聞いて笑顔になった。
「大きなアクビ」
隆は、麻美がアクビしているのを見つけて言った。
「あ、ばれた?」
麻美は、隆に見つかって、苦笑した。
「あれでしょ、昨日の夜も、またぜんぜん寝ていないんでしょ」
「うん。皆、お酒強いよね。それにパワフル」
麻美は、隆に言われて答えた。
昨晩も、宴会は夜遅くまで続いたようだ。
「寝てくればいいじゃん」
隆は、麻美に提案した。
「だって、こんなに気持ちいいのに、寝たらもったいないじゃない」
麻美は答えた。
「雪ちゃんは、眠くないの?」
麻美は、自分と一緒に夜遅くまで宴会に参加していた雪に聞いた。
「私?ぜんぜん平気!」
雪は答えた。
「若さかな?雪ちゃんもパワフル」
麻美が言うと、
「ええ、麻美ちゃんって、雪ちゃんと同い年でしょ」
「そ、そうだったわね」
麻美は、佳代に言われて笑った。
「やっぱ、少し眠いから、デッキの前に行って寝てこようかな?」
麻美は、タオルケットを持って、デッキの前部に移動して、そこにタオルケットを敷いて横になった。
麻美が寝転がると、横に佳代もやって来た。
「どうしたの?」
「横で一緒に寝ようかなって思って」
佳代は、麻美の横で寝転がった。
「ここ、お出で」
麻美は、自分の敷いているタオルケットを広げて、佳代のことを、そこに一緒に寝かせた。
お帰りなさい
「なつかしい」
ラッコが、横浜マリーナ前の海面まで戻ってくると、ステアリングを握っていた洋子が口にした。
「久しぶりに戻って来たものね」
「久しぶりって、たった3日だけじゃない」
二人の会話を聞いて、麻美は思わずクスッと笑ってしまっていた。
「一回、そこのビジターバースのポンツーンに停めようか」
隆が、横浜マリーナの前に付いているポンツーンを指さして言った。
「そこで、荷物とか降ろす方法が、降ろしやすいものね」
ラッコは、クレーンで上架する前に、いったんポンツーンに横抱きして、そこで片付けをすることになった。
ラッコがポンツーンに停め終わると、その脇を通り過ぎて、ドラゴンフライとマリオネットが大型クレーンにドック入りした。
二艇は、先に横浜マリーナのスタッフにクレーンで上架してもらい、自分たちの艇庫に入れてもらった後で、艇庫の中で帰りのお片付けをするようだ。
「これは、腐るものでもないし、今度の夏休みのクルージングのときにでも食べれるように、ここにしまっておこうか」
ルリ子とキャビンのキッチン周りを片付けていた麻美が言った。
ポンツーン脇のシンクで、食べ終わったお皿とかを洗い終わって、隆たちが、バケツにいっぱいの食器を持って、戻ってきた。
「置いておいて、あとは、私たちで拭いてから、片付けておくから」
麻美に言われて、隆と洋子たちは、デッキに出て、ラッコを操船してポンツーンを離れ、横浜マリーナの大型クレーンにドック入りした。
横浜マリーナのスタッフたちが、大型クレーンを操作して、今度はラッコを上架して、ラッコの艇庫に入れた。
皆は、艇庫のラッコの扉を閉めて、荷物を持って、家に帰るためにマリーナ付属の駐車場に移動した。
「ああ~、おもしろかった」
「早く、またクルージングに行きたいね」
皆の頭の中は、早くも次のクルージング、伊豆七島のことで頭がいっぱいだった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。