この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第6回
斎藤智
夏が来た。
隆が、お待ちかねの夏のクルージングの日がやって来た。
クルージングは、いつも隆が乗っているクルーザーではなく、別のクルーザーで行くのだそうだ。
同じヨットハーバーに停泊している仲間のヨットなのだそうだ。そのヨットは、フランス製の輸入艇だった。隆は、いつも乗っているクルーザーだってけっこう豪華なクルーザーだと思っていたのだが、そのヨットのキャビンの中を見せてもらって、その豪華さに驚いていた。
さすがファッションの街、フランスで造られた船だけあって、船内にはビビッドな色のクッションが敷かれていた。トイレも完全な個室で作られていて、トイレの脇にはシャワールームまでも完備していた。オーナーがクルージングはぜったいにこっちの船で行ったほうが快適だから、と言っていた理由がわかった気がした。
そのヨットで外洋に出ていた。
隆は、海上でラットを握らせてもらっていた。いつも乗っているクルーザーだと、ティラーといって木の棒のようなもので船の舵をとっていた。
だが、そのヨットにはラットといって車のハンドルのような装置で操船するのだ。
隆は、舵を取らせてもらっているときにトイレに行きたくなったので、仲間のクルーに舵を代わってもらって、いつものように船尾に行くとそこに立ってトイレをしようとしていた。
その船のオーナーに、そんなところでトイレをしないで、船内にトイレはちゃんと付いているのだから、中のトイレを使いなさいと言ってもらえた。
いつも隆が乗っているヨットのオーナーには、男性は外の船尾につかまってトイレをするように言われているのだが、そのオーナーにも船によって、しきたりが違うからと船内のトイレを使用しても良いとお許しをもらえた。
船が優雅でおしゃれになると、トイレの仕方も優雅になるのかもしれない。いつも、せっかく船内に付いているにも関わらず利用することができないヨットのトイレを初めて使用した。
「やはり、トイレでできるのは快適ですね」
トイレから出て来て、隆はオーナーたちに話すと、オーナーたちは笑顔で隆のことを笑っていた。
ヨットが伊豆の島に到着すると、オーナーはその島の漁港にヨットを入港、停泊させた。アンカーを打ち終わって無事にヨットが停泊されると、さっそくその船のクルーが水着に着替えて海に飛び込んだ。隆も水着に着替えると日が暮れるまでずっと港内のヨットの周りを泳いで過ごした。
夜は、オーナーがクルー全員を連れて、島のフランス料理のお店に連れていってくれて、お腹いっぱいになるまでご馳走してくれた。
クルージングの一週間を、隆はまるで夢のように楽しく過ごして横浜に戻って来た。帰りの電車の中でまた行きたいなと隆は思っていた。
今度はいつか自分のヨットで行ってみたいと思うのであった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。