この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第7回
斎藤智
隆には、大学でいつも一緒に学んでいる学友、悪友がいた。
彼女の名前は、佐藤麻美といった。
さばさばとしたちょっと男っぽい性格だった。高校卒業後、予備校で2浪してから、隆と同級生で大学に入学したのだった。
隆とは、隆が高3のときに予備校に来て、そこで知り合って以来のつきあいだった。およそ高3で大学受験を目前にするまで、受験、勉強とは縁のなかった隆が、はじめて予備校に通って、予備校のことがまったくわからなかったときに、2浪している麻美がいろいろと予備校のことを教えてくれたのだった。
頼れる姉貴分って感じの存在で、未成年の隆が予備校のほかの浪人生に、教室の隅でたばこをすすめられたときも、「高校生にたばこ勧めるんじゃねえよ」とそいつらに注意して、隆のことを守ってくれたこともあった。
いつも隆の前では、姉貴分というか男っぽい麻美だったが、実はとんでもないお金持ちのお嬢様だった。彼女の父親は、アメリカに本社のある大きな貿易会社の社長で、一年の半分以上を本社のあるサンフランシスコで暮らしていた。そのため、彼女や彼女の弟ともなかなか会うことは少なかった。
彼女の弟は、高校を卒業するとすぐに、貿易の専門学校に通って、卒業してからは父親の貿易会社に就職して、跡継ぎとしてがんばって働いている。弟が跡継ぎとして、父親の会社に入ってくれたおかげで、彼女自身は親にわりかし自由にさせてもらえていた。
隆たちは、大学の4年間をヨットに、勉強にと楽しく過ごして、卒業を迎えることになった。
隆は、卒業したら働く就職先がなかなか決まらずに、どうしようか悩んでいた。隆は、以前からよく誘われて麻美の実家にも遊びに行ったりもしていたので、そんな隆の様子をみて、麻美の父親に良かったら、うちの貿易会社で働いてみないかと誘ってもらえていた。
隆がどうしても決まらなかったらお願いします
と返事している間に、小さな中小企業から内定の通知をもらえて、隆の就職は無事に決まった。
まだ就職の決まっていなかった麻美は、父親に
「おまえはどうするんだ」
と聞かれ、もしどこにも決まらないなら、うちの会社でOLの空きがあるから働きなさいと言われていた。
麻美は、OLというと女性らしいイメージがあるので自分にはあわない、ましてや父の会社で働くなんて…と隆に話していた。
「隆の内定決まった会社ってまだ募集しているみたいだし、受けてみるかな」
「なんで、また俺と同じ会社を受けるの」
「いや、別に隆と同じ会社でなくても良いんだけどさ。隆でも受かった会社ならば、受かりやすいじゃないかなと思ってさ…」
「中小の小さな会社かもしれないけど、あの会社ってけっこう採用難しいみたいだよ」
隆は、麻美にせいいっぱいの反論をしてみたが、結局、麻美は、その会社を受けて、見事に採用されてしまった。隆は返す言葉が無かった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。