SailorsBLUE セイラーズブルー

ISPA ヨットの先生

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第112回

斎藤智

隆は、キャビンからデッキに戻って来た。

「どこ、行っていたの?」

「あ、トイレ」

ラッコのキャビンの中には、マリントイレが付いている。

マリントイレは、流すのがポンプ式になっていて、トイレの横に付いているレバーを上下に上げ下げすることで、トイレの水が流れていく。

マリントイレには、電動式で、手でレバーを上げ下げする代わりに、ボタンひとつでモーターが水を流してくれるものもある。

電動式だと、普通に家のトイレと変わらなく使うことができる。

隆も、ラッコを建造中にトイレを電動にするかしないかで、悩んだあげく、結局、電動のトイレは、壊れたときにメンテが大変だろうという理由で、普通の手動式のマリントイレにしたのだった。

ヨットの備品は、常に海の上で壊れたときのことも考えながら設置する。

「雪さんに教えてもらったセイルの上げ方だと、力もほとんど必要しないで、楽に上げられますね」

坂井さんは、麻美に言った。

「そうでしょう。楽よね」

麻美は、坂井さんに答えた。

「ね、隆。今日はね、雪ちゃんが、坂井さんに指導して、メインセイルを上げたのよ」

「へえ、雪が教えたんだ。雪、間違ったこと教えなかったか?大丈夫か」

隆は、雪に言った。

「大丈夫でしたよ。すごくわかりやすかったです」

坂井さんが、雪のことを褒めた。

「ばっちしよ」

雪がピースサインで、隆に向かっておどけてみせた。

「雪が、人にヨットを教えられるまでになったんだ。驚きだな」

隆は言った。

つい、この間まで。もやい結びがうまくできないと暁の望月さんに怒られていた雪の姿を思い出していた。

「今日のお昼は、なに作るの?」

佳代が麻美に聞いた。

「カレーよ。坂井家特製のカレー。昨日、坂井さんの奥さんと一緒に、スーパーでお買い物してきたの」

麻美が言った。

「美味しいかどうかわからないけど、うちのカレーは、豆が入ったカレーなの」

坂井さんの奥さんが、佳代に言った。

「けっこう作るのに手間かかるんだ。作るときには、お料理手伝ってくれる?」

「はい!」

佳代は、坂井さんの奥さんに大声で答えた。

特製カレー

本日の昼は、八景島脇の港内で食事することになった。

坂井さんの奥さんは、船が港内に停泊する少し前から、麻美と一緒にキャビンのギャレーに入って、料理を始めていた。

佳代も、麻美の後についてギャレーに入って来た。

「どうしたの?」

「お手伝いしようかと思って…」

佳代が、麻美に答えた。

「それじゃ、お野菜を切ってもらおうかな」

坂井さんの奥さんに言われて、佳代はギャレーの前のテーブルに腰かけると、まな板と包丁で野菜を切り始めた。

野菜を切る手つきは、おっかなびっくりだった。

「こうやると、上手に切れるわよ」

坂井さんの奥さんも、佳代の横に座ると、自分も野菜を切りながら、佳代にも、主婦歴十年以上の腕前で上手な切り方を教えてくれた。

佳代は、優しい坂井さんの奥さんに教えてもらえるのが、嬉しくて一生懸命、坂井さんの奥さんの切り方を真似しながら切っていた。

「佳代ちゃん!セイルを下ろすよ」

デッキから佳代を呼ぶ洋子の大声がした。

「あら、佳代ちゃん、呼ばれちゃった」

「あとは、私たちでやっておくから、外に行って、皆と入港の準備を手伝ってきなさいよ」

麻美に言われて、佳代はまた表に戻った。

「何やっていたの?」

ルリ子が、戻って来た佳代に聞いた。

「麻美ちゃんたちとお昼ごはんのお料理していたの。坂井さんの奥さんにお料理の仕方をいっぱい教えてもらちゃったんだ」

佳代が答えた。

「そうなんだ、いいな。坂井さんの奥さん、とても優しいものね」

「俺は、家ではけっこういつも怒られていますけどね」

坂井さんが、ルリ子に言った。

「え、本当ですか?本当は、家でもいつもラブラブなんじゃないですか」

ルリ子が、坂井さんのことを冷やかしていた。

港内に船を停泊し終わると、佳代は、急いでキャビンに戻った。

野菜は、もう既に全部切り終わっていたが、付け合わせのサラダの盛りつけを手伝うことができた。

「お、美味しそう!」

ほかの皆も、キャビンの中に入って来ると、食事になった。

「まずは、前菜のスープを飲んでいて」

カレーの前に、カップに入ったスープというよりも、シチューが出てきて、皆の前に置かれた。

「寒くなって来たから、暖かいものが美味しいな」

11月を過ぎると、横浜の海でセイリングしていると、けっこう寒くなって来る。

その代わりにキャビンの中に入ると、キャビンは、料理の熱などでかなり暖かい。

「そろそろ、お昼ごはんに鍋物とかもいいかもな」

「じゃ、来週のお昼は、お鍋にしようか」

隆に言われて、麻美が答えた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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