この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第25回
斎藤智
ルリ子は、ふっくらとした体型の可愛らしい女の子だった。
とてもおしゃべり好きで、明るい子だった。
先週、麻美に習ったばかりのもやい結びの結び方がよくわからずに、隆にもう一回教わっているときも、かん高い笑い声が絶えなかった。ルリ子の結び方の覚えが悪くても、その明るさに隆も憎めずにロープワークを教えられた。
今日は、まだ春先で少し涼しいので、お昼ごはんは船内で食べることになった。麻美が中心となって、船内のギャレーでお昼ごはんを作り、サロンのテーブルで食べる。
今日のお昼はパスタだった。
船では、真水は貴重な資源なので、一滴、一滴を大事に使いながら、パスタをゆでている。食べ終わったお皿も、バケツに貯めた水で軽く水洗いをしておいて、マリーナに戻ってから、しっかり洗うようにしている。
「いただきます!」
出来上がったパスタを、テーブルに出して皆で食事にする。
まだ出会ったばかりで食事の間も皆、あんまり話もなく、食べることに集中していたが、ルリ子だけは、常に楽しそうに、隆とおしゃべりしていた。
隆も天然というか、ふざけた話をするのが好きなので、食事の間じゅう、二人だけはキャキャと笑っておしゃべりしていた。
「さあ、セイルを上げようか」
食事が終わって、マリーナに戻る帰り道、隆のかけ声で皆は、来るとき初めて覚えたセイルの上げ方を復習しつつ、セイルを上げている。
皆の中で一番年長で長身の雪は、ほかの皆よりも、力もあるらしく、今日がセイリング初体験だというのに、もうしっかり麻美に習ってセイルを上げる手伝いをしている。それに対して、ルリ子は力もあまり無いので、あまりセイリングの手伝い、役には立っていないが、持ち前の明るさで皆を和ませていた。
ルリ子と隆の楽しいおしゃべりで、ヨットの上のほかの乗員たち皆も、次第に明るくなって和んできていた。
船長の隆は、ルリ子はセイリングは皆よりも出来ないかもしれないが、夏に皆でクルージングに行ったときなど、きっとクルージングを明るく楽しくしてくれるだろうなっと思っていた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。