この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第84回
斎藤智
今日は、たまにはお昼を外で外食しようということになった。
その日の日曜日、ラッコのメンバーは、いつものように横浜マリーナに集合した。
「おはよう」
クラブハウスに集まったメンバーは、船の置いてある艇庫に行く前に、クラブハウスのソファに腰掛けておしゃべりをしていた。
「今週は時間が無くて、今日のお昼の用意できなかったの」
麻美が言った。
「あとで、ショッピングスクエアのスーパーが開いたら、一緒にお買い物に行きましょう」
麻美は、ルリ子に言った。
「今日のお昼さ、外で外食をしようか」
麻美の話しているのを聞いて、提案したのは隆だった。
「ほら、ルリ子も望月さんから合格点もらえたことだし、そのご褒美と言うことで」
「外食?セイリングして戻ってきたら、ショッピングスクエア内のレストランで食事するってこと?」
麻美は、隆に聞いた。
「まあ、それでもいいけど、ヨットでこの近くのレストランまで行って、そこの前に停めて、そこのレストランで食事しないか」
隆は、答えた。
「え、そんなヨットで行って停められるレストランがあるの?」
「海際にあるレストランで、船で来た人のために、船を停められるように、レストラン脇の岸壁にポンツーンを作ってくれているんだ」
隆が言うと
「おもしろそう!そんなレストランあるんだったら、行ってみたい」
佳代が言った。
ほかの皆も、隆の言うレストランに行ってみたくなっていた。
「それじゃ、出航する準備をして、出かけようか」
皆は、ラッコの置いてある艇庫に行って、出航するセイリングの準備を始めた。
タイクーン
横浜の新山下にタイクーンというレストランがある。
タイクーンは、たまにテレビの撮影隊がやって来て、ドラマのロケ地にも使われているので、けっこう有名だ。
レストランは、横浜港の海に面したところにある。
レストランの客席からは、横浜の港が一望できて、マリンタワーやベイブリッジも見える。
すぐ近くには、横浜に古くからあるヨットハーバーがあって、ボートやヨット、クルーザーの姿を眺めながら食事ができる。
まさに港、横浜に相応しいレストランだ。
「今日は、セイル上げないの?」
ルリ子が、隆に聞いた。
いつもならば、横浜マリーナを出航して、沖に出たところですぐにセイルを上げて、エンジンを止め、セイリングするのだが、今日は、もうずいぶん沖まで走って来ているのに、ステアリングを握っている隆は、一向にセイルを上げる気配がなかった。
「ああ、セイルか。上げたいか?」
「それは、ヨットだから、エンジンで走っているよりも、セイルで風で走りたいけど」
ルリ子は、隆に答えた。
「それはそうだよな。俺も、エンジンの音を聞いているよりも、風で走って、エンジンは切りたい」
隆は答えた。
「でも、今日はお昼にレストランに行くだろう。レストランは、横浜港内にあるから、港内は直に帆走禁止海域に入るから、食事して帰りにセイルは上げよう」
隆は、ルリ子たちクルーに説明した。
皆は、レストランがどこに在るか知らないので、船の行き先をウォッチしていた。
隆が操船している船は、ベイブリッジの内側に入ると、ベイブリッジのすぐ側の細長い狭い航路の中を突き進んで行った。
「細い、狭い道」
クルー皆は、初めて通る航路にわくわくしながらウォッチしていた。
「ほら、レストラン見えたよ」
その細い航路の突き当たりにラッコは到着した。
突き当たりには、バルコニー、ウッドデッキの付いたおしゃれなレストランがあった。
ウッドデッキには、テーブルや椅子が並べられていて、テーブルの上には赤、白のカラフルなビーチパラソルが立っていた。ウッドデッキでも、食事ができるみたいだった。
「ここって、もしかしてタイクーンじゃない?」
「タイクーンって、ライブとかやっているところだよね。こんなおしゃれだったっけ?」
「陸から来ると、まるで汚い倉庫みたいなところだけど、海から来ると、すごくおしゃれな外観のレストランに見えるね」
そのタイクーンのウッドデッキ前には、船が停められる停泊スペースがあった。
既に3艇ほどのパワーボートが停まっていた。
2艇目と3艇目の間にスペースが空いていた。そこにラッコは、進入して停泊した。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。