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レース観戦

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第33回

斎藤智

「ここで待っていても仕方ないから、ちょっとレース観戦しに行こうか」

隆は、皆にそう言って、スタートラインのところに停泊していた自分のヨットを出した。

ラッコの船のアンカーは、船の最前部、バウスピリットに付いていて、船内の操舵システム内のボタンを押すだけで電動で自動的に上げ下ろしできる。

さっき、レース用のブイを打つときは、雪とルリ子が重い、重いと苦労して打っていたが、ラッコのアンカーはそんな苦労をする必要がなかったのだ。アンカーを上げると、そのままエンジンを始動して走っていくだけだ。

いつもならば、走り始めてすぐにセイルを上げてセイリングをするのだが、今日はレースの本部艇をしているので、機走でエンジンだけで走る。

「すごいね!一番だね」

麻美は、望月さんのヨット、船名シリウスがどのヨットよりも遥かに先頭を走っていくのを見て言った。

シリウスは、船内の無駄なものは一切排除し、背の高いマストに大きめのセイルで、セイリングで出来るだけ速く走れるように建造されている。

隆の話では、シリウスは横浜マリーナのクラブレースでは、常に一番を走っているそうだ。乗員たちのレースに対する気合いも、ほかのヨットの乗員たちとは違うようで、屈強な男性たちがお揃いの赤いユニフォームで、デッキ上にずらっと並んでいる。

「どうして皆、片方に一列に並んで座っているの?」

ルリ子が、麻美に素朴な疑問を述べた。

ヨットは、横からの風を受けて、ヒールといって横に大きく傾きながら走る。レース艇では、この傾き、ヒールを出来るだけ平らにしながら走るのだ。そのためにセイルに付いたロープで微調整をしながら走るのだが、微調整が終わって、手が空いた乗員たちは、シーソーのようにヒールで傾いている船の上側に乗って、傾きを抑えようとしているのだ。

なぜ、ヒールを抑えて平らにするのかというと、その方がヨットが速く走るからだ。

一番先頭を走っていくシリウスを追って、ほかのヨットの乗員たちも一生懸命ヒールを抑えて、懸命にシリウスを追っている。

追っているほとんどのヨットが、30フィート前後のヨットなのに、その中を一艇だけ小さなヨットが、大きなヨットの中に混じりながら、必死にシリウスの後を追っている。

隆の話では、それはJ24という24フィートのヨットで、アメリカなどでは同じJ24のヨット同士が競い合うレースが盛んに行われているらしい。

そう言われてみれば、麻美は、アメリカで大学のヨット部が開催していたヨットレースを見たときのヨットが、今、目の前を走っているJ24と同じような丸っこい形をしていたなと思った。

シリウスは、圧倒的に大差で先頭を走っているが、2位以下のヨットは、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り返していて、迫力あるレース展開をしていて、本部艇の上で観戦している麻美たちも楽しめた。

麻美たちが苦労して打った折り返しのブイを、シリウス以降の先頭集団がぐるっと周って戻っていく。ラッコは、そこの場所に停泊して後続艇が皆、周っていくのを確認してから戻ることにした。

一通り、先頭集団が周っていってしまうと、後ろのほうの集団のヨットがやって来る。

先頭のヨットたちは、乗員が船の横から一生懸命、身を乗り出してヒールを抑えていて迫力あったが、後ろのほうのヨットの乗員たちには、レースの緊張感はまったく感じられなかった。

皆、のんびりしたものでデッキの上で缶ビールを飲みながら、楽しそうにブイを周って戻っていく。

中には、レース中だというのにコクピットに大きなテーブルを広げて、豪華な料理を並べて食事しながら走っていくヨットまであった。

これが、レース中だというのに、この緊張感の無さ、これがまた本格的なヨットレースにはないクラブレースならではの楽しみだろう。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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