ヨットを出品

夜の当番

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第225回

斎藤智

「夜の当番を決めようか」

ラッコが横浜マリーナを出航して、観音崎の灯台辺りを過ぎる頃に、隆は皆に提案した。

「夜の当番ってなによ」

麻美が、隆にツッコんだ。

なんだか夜の当番って、お水のようだ。

「いや、ウォッチをね、順番を決めようかと」

隆が、麻美に言われて訂正した。

「それだったら、ちゃんとそういう風に言わないとね。皆に伝わらないから」

麻美が言った。

「隆は会社でも、そうなのよ。社長として、なんか集まった時も、一言足りないから、え!?って社員皆に驚かれちゃっうことが多いんだ」

麻美は、皆に隆の会社であったことを報告した。

それを聞いて、皆は笑った。

「それで、社員皆が驚いたときって、その後はどうなるんですか?」

ルリ子が麻美に聞いた。

「え、どうなんるんだろ?そうね・・」

「麻美が、いつもフォローしてくれるから言葉足りなくても大丈夫」

麻美が、すべてを答える前に、隆が自分で説明した。

「そうなんだ」

「なんか隆さんたちの会社って働いてておもしろそう」

洋子が言った。

「フォローする私は、大変なんだけどね」

麻美が苦笑しながら言うと、

「でも、それはそれで楽しそうよ」

洋子が言った。

「なんだか、隆の会社って、ラッコと同じような感じに思える」

「ちなみに、私、最初に隆さんが〝夜の当番〟って言った段階で、ああ、ウォッチのことなんだなってわかったけど」

「あら、すごい!」

「私が、隆さんの会社に行ったら、麻美さんもフォローする数減るかも」

「そうなの、じゃあ、洋子ちゃん、うちの会社に転職して♪」

麻美は、洋子の肩を背中から抱きながら言って、二人は笑顔になっていた。

「で、夜の当番は?」

隆は、話を元に戻した。

「夜の当番ね」

麻美が繰り返した。

「隆さんと麻美ちゃんが二つに別れたほうがいいよね」

「うん。それぞれオーナーさんがどっちかでウォッチできるものね」

皆は言った。

「え、でも、私じゃ乗ってても、そんな役立たないから、隆と雪ちゃんで別れたら?」

麻美が言った。

「じゃ、そうしよう。俺と雪で別れて、雪が自分と一緒にウォッチ組む人決めなよ。その残ったほうと俺は組むから」

隆が雪に言った。

「え、じゃあ、どうしようか」

雪が誰にしようか困っていた。

「とりあえず麻美ちゃんじゃないの?」

ルリ子が言うと、

「そうだよね、じゃ、麻美ちゃんと佳代ちゃん、あと洋子ちゃんは・・ダメだよね?」

洋子のほうを見て、雪が言った。

「別にいいけど・・」

洋子が雪に答えたので、

「でも、隆さんが」

「う、俺が?いや別に好きにどうぞ」

隆が返事した。

「だって、隆さんと洋子ちゃんは、同じグループの方がいいでしょう?」

「いや、別にいいよ」

「うん。私、隆さんと違ってもぜんぜんいいよ」

隆と洋子は、雪に答えた。

「じゃ、あと洋子さんで」

雪が言った。

「それじゃ、あと残りのルリ子と香織は、俺と組もう」

ウォッチのグループは決まった。

先のウォッチ

麻美が眠そうだったので、

「それじゃ、俺らが先にウォッチをしようか」

隆が雪に提案した。

「それでは、お願いします」

雪が言った。

「それじゃ、すぐ横にいるんだから、香織ちゃんは、佳代とステアリング代わってあげて」

香織は、隆に言われて、佳代とステアリングを握るのを交代した。

「おやすみ」

後のウォッチの担当になった班は、キャビンの中に入った。

「佳代ちゃんは、後ろのベッドで先に寝る準備しておいて」

麻美は、佳代に言った。

佳代は、後ろのオーナーズルームに入ると、ベッドの上に麻美と自分の分のタオルケットを広げて、いつでも寝れるようにした。

「ねえ、雪ちゃんも一番前は、走行中は揺れるから、洋子ちゃんのお隣で寝たら」

麻美が、雪に提案した。

「はい」

「洋子ちゃん、雪ちゃんも隣りで寝かせてあげてね」

麻美は、二人のタオルケットを広げながら、洋子に言った。

「もちろん」

洋子と雪は、キッチン前のダイニング、今はテーブルを下して、ベッドになっている、に入って横になって、麻美から受け取ったタオルケットをかける。

「おやすみ」

麻美は、キッチンとダイニングの間のカーテンを閉めて、二人が寝れるようにした。

「お待たせ、それじゃ、私たちも寝ようか」

麻美は、後ろのオーナーズルームで待っていた佳代に声をかけて、二人も、そこのベッドに横になってタオルケットをかけ、眠りについた。

「考えてみたら、きょうは金曜日の夜なんだよね。ってことは、一日ずっと会社でお仕事した後なんだよね」

麻美は、横になりながらつぶやいた。

「仕事疲れで、ぐっすり寝ちゃいそう」

麻美は、うとうとしながら言った。

「麻美さんって、会社の日って、いつも夜は仕事疲れでぐっすり寝ちゃう方?」

「うん、ぐっすりね」

佳代に聞かれて、麻美は答えた。

「佳代ちゃんは?」

「私は、ぐっすり寝ちゃうときもあるけど、明日のお仕事のやること考えてて、寝られないときもあるの」

「そうか。私は、ぐっすり寝ちゃうことのほうが多いかな」

二人は、並んで横になって寝ながら笑った。

「寝ちゃったんだね」

香織は、ステアリングを握りながら、キャビンの中の明かりがぜんぶ消えたのを確認して、後ろにいる二人に声をかけた。

「香織は眠くないか?」

隆は、香織に聞いた。

「ううん、私は夜のクルージングって初めてだから、なんか興奮しちゃって」

「あ、そうか。香織は、今年から横浜マリーナのヨット教室で、ヨットに乗り始めたのだものね」

隆は、言った。

「どうする、初めてだってよ」

隆は、ルリ子に言った。

「私なんか、もう二回目だし。慣れすぎちゃって、初々しさないよね」
ルリ子は、隆に笑顔で返事した。

「あれ、ルリちゃんって夜は、まだ二回だっけ?」

「夜は、二回じゃないよね。もっと乗ってるかも。でも、夏のクルージングは二回目」

「そうか。ルリちゃんたちも、もうヨットに乗り始めて二年目ってことか」

隆は、時の経つの早いなと思っていた。

「その割には、成長するの遅いってか・・」

ルリ子は、隆に苦笑してみせた。

「そんなこと言ってないじゃん」

「言ってないけど、思ってる?」

「いや、別に。皆、よく成長したよ」

「雪ちゃんとか」

ルリ子が言った。

「雪も、初めの年のもやいも結べないのから、よく成長したと思うけど。ルリちゃんも成長したよ」

「ここ?」

ルリ子は、自分のぽっちゃりしたお腹を揺らしてみせた。

「え、ああ。いや、違う、違う。ヨットがね」

隆は、ルリ子のお腹をチラッと見てから答えた。

「雪さんが、ルリちゃんのこと褒めていたよ。さっき」

香織が言った。

「え、なにを?」

「エンジンとかナビの機械とか、自分には、さっぱりわからないのに。一つひとつの部品まで、とってもよく知っているって」

香織から、雪に褒められたことを聞いて、ルリ子は少し照れていた。

後のウォッチ

「おはよう」

麻美たちが起きてきた。

ちょうど、ルリ子がステアリングを握っているときだった。

「おはようって、まだ夜だよ」

隆が、おはようと起きてきた麻美に言った。

「でも、私たち起きたばっかりだからね」

「それじゃ、隆さんと同じだね」

ルリ子が、ステアリングを握りながら、笑って言った。

「隆と同じ?」

「うん」

ルリ子は、麻美に答えた。

「そうなんだ。つい、ここに座りながら、うとうと寝てしまってたよ」

デッキの後ろのオーナーズチェアに座っている隆も答えた。

「ウォッチの間、二人がずっと交代でラットを握っていてくれたから、俺は一回もラットを持っていないんだ」

隆が言った。

「あら、そうなの。それは、隆、楽できて良かったわね」

麻美が言った。

「佳代ちゃん、交代してくれる?」

「うん」

佳代は、ルリ子からステアリングを代わって握り、舵を取っていた。

「ああ、肩こった」

ルリ子は、佳代にステアリングを渡して、手が空いたので、その両手を上に大きく上げて伸びをした。

「それじゃ、寝ようか」

隆は、オーナーズチェアを立ち上がって、ルリ子と香織を誘って、キャビンの中に入った。

「寝るところ、大丈夫?」

麻美も一緒にキャビンに入って来て、皆に聞いた。

「大丈夫だから、麻美は外でウォッチしてなよ」

隆が言うと、

「隆は、後ろで寝なさいね」

麻美は、オーナーズルームの方を指さして指図した。

「はーい」

隆は、オーナーズルームに入った。

「香織ちゃんは?どこで寝る?」

麻美は、香織に聞いた。

「なんか私、夜のクルージングって初めてで興奮して眠くないよ」

香織は、麻美に答えた。

「あら、そうなの。でも、初めての夜のクルージングで寝るのも楽しいからね」

麻美は、香織の頭を撫でてあげながら言った。

「ルリちゃん、香織ちゃんも横で寝かせてあげてくれる?」

麻美は、ダイニングのベッドで寝る準備をしていたルリ子に声をかけた。

「うん。一緒に寝よう」

ルリ子は、香織に声をかけた。

香織は、ルリ子の横で、横になった。

「おやすみ」

麻美は、ダイニングのカーテンを閉めながら、言った。

「こちらは大丈夫?」

麻美は、外へウォッチに出る前に、後ろのオーナーズルームの中を覗いた。

隆がタオルケットもかけずに横になっていた。

麻美は、中に入ると、隆の体にタオルケットをかけた。

「暑いよ」

隆が答えると、

「風邪ひくでしょう」

麻美は、隆にタオルケットをかけさせると、キャビンの外へウォッチをしに出た。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。