夜の出航、再び

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第71回

斎藤智

隆は、買い物から戻って来て、航海計器の設定をしていた。

麻美たちは、買い物してきた食材を棚に仕舞いながら、夜食の準備もはじめていた。

大島までの行程は、行きはまた、夜通し走り続けるので、お腹が空かないようにと、麻美は、おにぎりを握っているのだった。

「ね、隆は、先にウォッチする?それとも後にする?どっちでも良いのなら、私が先に寝たいんだけど…」

麻美が、隆に聞いた。

「いいよ」

隆が答えたので、麻美は、後ろの部屋に行って、ベッドの布団をセットして、出航したら、しっかり眠れるように準備をし始めた。

いつも後ろの部屋で、麻美と一緒に寝ている佳代がやって来て、ベッドの準備を手伝っていた。

「私、今日はなんか眠くて…」

「そうなの、どうして?」

「昨日さ、仕事が忙しくて、会社で泊まり込んでいるのよ。隆たちも、会社で泊まっているんだけど、隆なんかは、社長室の脇にあるソファでガアガア寝ていたけど、私は、なんかさ、よく眠れなくて…」

「そうだよね。会社のソファとかじゃ、寝にくいよね」

麻美は、自分たちのベッドメイキングを終えると、船首の部屋に行き、そこのベッドメイキングも始めた。

「隆!今回も、夏と同じグループでウォッチ別れるのでいい?」

「ああ」

隆は、一緒にクルージングに行くマリオネットの中野さんが来ていて、一緒に航海計器を確認しながら、おしゃべりをしていたので、麻美には曖昧に返事していた。

「ルリちゃんも、ベッドメイキング手伝ってね」

麻美も、いちおう聞いてはいたが、隆の返事は待たずに、さっさと他のクルーたちと船首のベッドメイキングを始めていた。

「よし、12時になったら、出航しようか」

隆は、洋子や雪、それにマリオネットの中野さんに告げた。

おやすみ

船が出航すると、すぐに麻美は眠ってしまった。

「おやすみなさい」

よほど、眠かったみたいで、揺れているヨットの上だというのに、船尾のベッドでぐっすり眠ってしまっていた。

その横では、佳代も寝ていた。

3時間ほど寝ると、佳代は、自分の番のウォッチのため、起きあがった。佳代の起きる音で、麻美も眠そうな目をこすりながら起きた。

「麻美さん、まだ寝ていてもいいよ」

佳代は、眠そうな麻美に言った。

「でも、ウォッチの順番でしょう」

「大丈夫。なにか必要だったら、麻美さんのことを起こしにくるから、それまでは寝ていてもいいよ」

佳代は、答えた。

さすがに眠たかった麻美は、佳代のせっかくの申し出を受け入れて、引き続き眠ってしまった。

佳代は、コクピットに出ると、ウォッチをしていた隆たちと交代でウォッチについた。

「寒いよ」

交代のとき、隆は、暖かいコーヒーの入ったカップを、佳代に手渡しながら伝えた。

Tシャツ、短パンでウォッチをしていた夏のクルージングに比べると、9月のナイトクルージングは、気温も涼しくなっていた。

佳代も、しっかりとカーディガンを着てのウォッチとなった。

「中で舵を取らない?」

しばらく、外のデッキで寒さを我慢しながら、舵を取っていた佳代は、一緒にウォッチしているルリ子に聞いた。

「そうだね。じゃ、私が舵を握っているから、佳代ちゃんは、中に入って、中の舵を取って」

佳代は、船内のパイロットハウスに行くと、そこのステアリングを握って、舵を取った。

「ルリちゃん、舵を取ったよ!」

船内から、佳代が大声でデッキのルリ子のことを呼ぶと、ルリ子も船内に入って来た。

「うわ!暖かいね」

船内、パイロットハウスのサロンに腰かけたルリ子は、寒さで涼しくなった自分の手をこすり合わせながら、船内の暖かさに感動していた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。