この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第20回
斎藤智
「私が生徒を迎えに行ってこようか」
デーセイリングから横浜マリーナに戻ってきて、ヨットの後片付けに忙しそうな隆に、麻美は言った。
これからクラブハウスで、ヨット教室の生徒たちの各艇への振り分けがあるので、振り分けに参加する艇のオーナーは、クラブハウスに集まらなければならなかった。
「お願いします」
隆は、後片付けをしながら、麻美にお願いした。
麻美は、自分も後片付けをしていたのだったが、その手を休めて、バッグを持って船を降り、クラブハウスにうちの船に振り分けられるはずの生徒を迎えに行った。
クラブハウスは、ヨット教室の生徒や迎えに来た船のオーナーさんたちで大混雑だった。
暁のヨットのオーナーさんも、自分の生徒を迎えに来ていた。
「はい!皆さん、ちゃんとロープワークはできましたか?」
ヨット教室の生徒たちは、ちょうどロープワークの学科教習を行っているところだった。生徒たちは皆、マリーナから手渡された1mぐらいのロープを相手に、初めて結ぶヨットの結び方がよくわからずに、悪戦苦闘していた。
それをマリーナのスタッフが一人ひとり、生徒たちのところを周って指導しているが、生徒の数がスタッフの数よりも多すぎて、手が回り切れていない。
教壇に立っているスタッフの先生が、集まって来たオーナーさんたちにも側にいる生徒さんで結び方のわからない生徒さんがいたら、教えてやってくれとお願いしていた。
麻美も、ちょっと前、冬までは、ロープの結び方がわからず、よく隆に怒られていた。側にいた女の子の生徒が、もやい結びの結び方がよくわからずにいたので、麻美は、その子に結び方を教えてあげた。
「だいたい皆さん、結び方がわかりましたか!?」
教壇のマリーナスタッフの先生が、生徒たちに教壇から叫んでいる。
「まだ、よくわからないって方は、うちに戻ってから教本見ながら、練習してみてください。それでは、そろそろ皆さんが、来週から乗る船の振り分けをしたいと思います!」
生徒たちの各艇への振り分けが始まるみたいだ。
麻美がロープワークを教えていた女の子も、まだロープが一人で結べるまでにはなっていなかった。
でも、授業は振り分けのほうに進んでしまっていた。
麻美は、女の子が、まだ麻美のヨットに振り分けられるかどうかはわからなかったのだが、もしうちの船に振り分けられたら、後はヨットのほうに行ってから、そこで続きは教えてあげると約束をしていた。
そう約束しながら、とても素直で可愛い女の子だったので、彼女がうちのヨットに振り分けられると良いなと麻美は願っていた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。