この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第13回
斎藤智
そのヨットは横浜に上陸した。
フィンランドの小さな田舎町で建造されたモーターセーラータイプのヨットだった。モーターセーラーとは、普通のヨットに比べて比較的大きな馬力のエンジンを積んでいて、船内、キャビンの中にも操船ができるハンドル、ステアリングラットが装備されているヨットのことだ。
風が吹いているときは風を利用してセイルで走るが、風が吹いていないときには、エンジンでも走れるというオールマイティなヨットだ。
フィンランドにあるナウティキャットという造船所で建造された全長33フィートのヨットだった。
船内の内装は、ある程度のレイアウトはあるが、一艇ずつカスタマイズで建造することができて、オーナーの隆の要望でいろいろとオプション装備が施されていた。
建造中の間は、隆自身もフィンランドまで行って、どんなふうに建造されているかチェックしていた。そのヨットがようやく完成して、貨物船に積まれて日本までやって来たのだった。
ナウティキャットは日本には販売窓口がなく、隆は個人輸入の代行業者に頼んでコンテナに乗せてもらって運んで来たのだった。ヨットの場合、外国で建造されたものを、個人輸入で輸入されている方はけっこう多かった。
マストと船体がバラバラの状態で、大きなコンテナの中に入って運ばれてきたヨットは、横浜港でコンテナから開封されて税関を通ってから、大型トラックに乗ってマリーナにやって来た。
その日の朝早くから、隆は麻美といっしょにヨットがやって来るのをマリーナのクラブハウスで待っていた。大きな白い船体がマリーナの道の向こうから近付いてくるのが見えると、隆と麻美はクラブハウスから飛び出して出迎えた。
「大きいね」
「トラックに乗っているせいかな、造船所で見た時よりも大きく見えるな」
二人は、やって来たヨットの大きさに感激していた。
その白い船体は、新艇らしく全体にまだビニールがかけられていた。まだ中を一度も見ていない麻美は、早く船内を見たかったが、まだ二人は乗ることができなかった。
これから作業員の方が、船体にかけられたビニールを剥がして、マストを立ててデッキ周りの装備を装着するのだ。
隆や麻美が乗れるのは、それらの作業がぜんぶ終了してからだ。
まだ作業に数時間はかかりそうだ。二人は、ワクワクしながら作業員たちが作業している様子を眺めていた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。