モーニングばんや

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第137回

斎藤智

麻美も起きてきて、皆で目の前のレストラン「ばんや」まで向かった。

保田に来る度に、ばんやで食事をしている隆も、朝ごはんをばんやで食べるのは初めてだった。

「何が出るんだろうね?トーストかな」

「シリアルとかパンケーキかも…」

ばんやの店内に入った。

夜、ばんやに食べにくると、いつも人で混雑している店内だったが、朝は空いていた。

「ずいぶん空いているじゃん」

「朝も、営業していること誰も知らないのかもね」

隆たちは、席に着いた。

メニューを開くと、お粥とかメザシとか和食中心の朝食だった。

「おお、良いじゃん」

年輩の中野さんは、メニューを開いてみて喜んでいた。

「私、朝からごはんは食べれないかも」

ルリ子が言った。

「それじゃ、お粥にしようか」

朝ごはんにお米が苦手のルリ子たちに、麻美が勧めた。

隆は、お粥でなく普通の白米に魚料理にした。

隆の実家は、小さい頃からお米、和食中心の食事だったので、朝から白米も大歓迎だった。

「麻美の家は、老舗の貿易会社のお嬢様だから、和食は苦手でしょう?」

「そんなことないよ。うちもよく朝、お米食べていたもの」

麻美は、隆に答えた。

「それに、うちの貿易会社って、別に老舗でもなんでも無いし、いつも弟の面倒ばかりみていた貧乏お嬢さんだから」

麻美は苦笑した。

本当に子どもの頃は、弟の面倒みていたらしく、運ばれてきた佳代の食事の魚の骨を取って上げている麻美だった。

佳代は、本当に魚が苦手らしく、自分一人で魚を食べさせると、骨と一緒に身までも、ぜんぶ取り分けてしまう。

メインの魚以外にも、卵豆腐や納豆、のりなども料理に付いてきていた。

最後に生卵を割って、白米にかけ混ぜて、食べ終えると、デザートに寒天、フルーツまで出てきた。

大満足の朝食に、隆たちはお腹いっぱいになっていた。

ウェイトレスのお姉さん、おばさんの話だと、寒天は漁協のおばさんたちが皆で作り上げたそうだ。

「さあ、行こうか」

皆は、席を立って、ヨットに戻った。

「少しゆっくりしてから、9時に出航しようか」

9時の出航までの時間を、皆はそれぞれのんびりとキャビンで過ごしていた。

皆が、のんびり過ごしている間に、港の沖合では、波と風が徐々に強くなっていた。

特別なセイリング装備

そろそろ出発の時間なので隆たちは、キャビンの中で出航準備をしていた。

セイルの畳み直しは、昨日、保田に到着した時点で既に終えていた。

出航前のロープのセッティングは、ばんやに朝食を食べに行く前に既に終えていた。

今、隆たちがキャビンの中でやっている出航準備は、自分たちの着替えだった。

今日の海は、相当荒れているようだということで、雨合羽着用で帆走することになったのだった。

皆が着用しているのは、赤に白ラインの入ったヨット専用の雨合羽の上下だった。

完全防水仕様の雨合羽で、しっかり止めて着用すれば、荒れた海の中でも体の中に水が入ってくることは全くない、体が濡れないでいられる服装だった。

去年の秋に、皆でマリンショップに行って、購入してきたものだった。

「どうせ買うのなら、皆でお揃いにして、ヨットの上での統一感を出そうよ」

ルリ子の提案で、お揃いの雨合羽になったのだった。

「暁さんのクルーの人たちの服装かっこいいね!」

ヨットレースのとき、暁の艇上のクルーたちが皆でお揃いの黄色い雨合羽を着用して、セイリングしているのを見たのがきっかけだった。

「ね、どの雨合羽にしようか…」

赤や紺、ブルーの雨合羽、オイルスキンがマリンショップには、置いてあった。その中からどの色にするか洋子たちは、悩んでいた。

「紺の色もかっこいいよね」

「こっちのブルーも鮮やかでいいんだけど…青系ってどのヨットの人たちもけっこう良く着ているよね」

「マリーナに行って、ほかのヨットの人たちとファッションが重なってしまうのも、ちょっとね」

マリンショップの店内、入り口付近のショーウインドウには、ピンク色の可愛らしい雨合羽が置かれていたのだった。

それを見たとき、洋子も、ルリ子も皆、かわいいという歓声を上げて、それが全員一致で気に入ったのだった。

だが、隆がいるので、隆がピンク色の雨合羽を着るのは、さすがに似合わないだろうということで、それは却下になったのだった。

そして、その代わりに今、皆が着ている赤ベースに白いラインが二本線で袖に入っているものになったのだった。

この雨合羽も、肩のあたりと足元に少しだけだが、ピンク色がちゃんと入っていた。

そのピンクのところに、白で小さくラッコが貝を抱えているイラストが入っていた。

チーム用に、オリジナルでロゴマークなどを入れることができるとショップの人に言われたので、ルリ子が可愛いラッコのイラストを描いて、それをウェアに入れてもらったのだった。

「あれ、佳代ちゃん。なに、それ?」

隆は、佳代の着ている雨合羽の肩の部分にキラキラデコレーションが入っているのを見つけて、聞いた。

「可愛いでしょう?」

隆が気づいてくれたことが嬉しくて、佳代は、皆に見えるようにチラッと肩のところを見せた。

「可愛い!デコしたんだ」

洋子が言った。

佳代の肩のところのラッコのイラストの周りに少しだけキラキラとデコレートされていたのだ。

「可愛くていいな。私も佳代ちゃんに作ってもらおうかな」

麻美が佳代に言った。

佳代は、作ってあげると頷いていた。

「洋子やルリちゃんなら似合うだろうけど、おばさんは、似合わないからやめときな」

隆が麻美に言った。

「あら、失礼ね」

麻美は、隆の頭をポンと叩いた。

「さあ、出航しよう!」

雨合羽、オイルスキン着用に、マリン用のブーツでデッキに出た皆は、ヨットの舫いを外して、横浜マリーナを目指して出航した。

ラッコが出航した後で、それに続いてマリオネットも出航した。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。