この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第10回
斎藤智
次の日、隆たちはサンフランシスコの南の小さな田舎町にいた。
麻美の父親が、ヨットが好きな隆にどうしても見せたい港があるとかで、少し早めに起きて車で出かけてきたのだった。
サンフランシスコから車で3、4時間ぐらいのところにあるモントレーという小さな漁師町だった。古き良きアメリカという感じで素敵な街並みだった。
その街の外れに漁師たちの船が停泊している漁港があって、その向こう側にマリーナがあった。
マリーナの脇にはモントレー水族館という小さな水族館があった。
ここの沿岸には野生のシーライオンという哺乳類が住んでいた。シーライオンたちは、沿岸一帯の岸壁にかなりの数いた。昼間は、ほとんど岸壁の岩の上に寝転がって過ごしているようだった。
シーライオンたちは、街にもよくやって来るようで、マリーナのポンツーンにも何匹もゴロゴロと寝転がっていた。ポンツーンどころか停泊しているボートの上にまで上がり込んで、デッキ上で日向ぼっこしているシーライオンもたくさんいた。
自分たちのボートの上に勝手に乗られていても、ボートオーナーは特に怒ることもなく、のんびりとシーライオンたちとうまく共存していた。
マリーナのもっと向こう、沖合にはケルプという海草がたくさん海に浮かんでいた。ケルプがあるところには、カリフォルニアの野生のラッコたちが住んでいた。
そこらへん一帯の海が一面見えるところがあるというので、隆たちもその場所に行ってみた。海のケルプが浮かんでいるところをよく見てみると、野生のラッコがお腹に貝をのせて食事している姿を見つけた。
「隆!ラッコだよ!あそこにラッコがいる!」
「本当だ!貝を割っているじゃないか!」
隆も、麻美も、野生のラッコを初めて見て思わず興奮してしまっていた。隆は、野生動物や自然が豊かで、すぐ近くには、ヨットハーバーもあり、お腹が空けば漁港の市場に行けば、新鮮な魚がいくらでも手に入るこの町がすっかり気に入ってしまっていた。
いつか自分のヨットを手に入れたら、この町に来てここでのんびりと暮してみたいなと思っていた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。