SailorsBLUE セイラーズブルー

望月先生

望月先生

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第83回

斎藤智

ラッコは、セイルトレーニングを終えて横浜マリーナに戻って来た。

「フェンダーを用意して。左舷側でつけるから」

隆は、ステアリングで舵を取りながら、洋子たちクルーに指示をした。

横浜マリーナの岸壁にあるポンツーンに停めて、そこでお昼ごはんにしようというのだ。

横浜マリーナには、水面係留しているボート、ヨットと上架して陸上の艇庫に保管している船がある。

水面係留しているボート、ヨットは、お昼を食べたりするときも、自分のバースに停めて食べる。

が、

隆たちラッコのように艇庫保管しているヨットは、海上に自分たちの専用バースがないので、そういった船たちが、お昼の食事するときは、ゲスト用のポンツーンを利用していた。

「前のもやいをもう少しゆるめて」

「後ろ側は、もっと引いて」

隆たちが、ラッコを、ロープでポンツーンに停めていると、マリオネットや暁など、ほかの出航していたヨットたちも、マリーナに戻って来た。

彼らたちも、お昼ごはんをするため、ポンツーンに停めるのだ。

先に停め終わった隆たちラッコのクルーは、後からやって来たマリオネットたちのもやいをポンツーン側から取ってあげている。

横浜マリーナのポンツーンが、お昼に戻って来たヨット、ボート全てが停められるほど広いポンツーンだったら良いのだが、それほどまでは広くない。

船の大きさにもよるが、ゲストバースは、だいたい4、5艇が停まるといっぱいになってしまう。

いっぱいになってしまった後で、戻って来たヨットは、既にポンツーンに停まっているヨットに横付けして二重、三重に停めている。

「ラッコさん、いいかな?」

「どうぞ。もやいを取りましょう」

後から戻って来た暁が、ラッコの横に停める。

ラッコのクルーたちは、暁のもやいロープを取ってあげて、自分たちのヨットのクリートに結んであげる。

雪は、洋子と佳代が暁のもやいロープを受け取って、クリートに結んでいるのを見て、少しホッとしながら、黙って暁の船体がラッコの船体に当たらないように押さえる側に回っていた。

もちろん、ルリ子も、舫いロープを自分が受け取らなくて良くなったことにホッとはしていたのだが。そこは、ひょうきん者のルリ子だけあって、雪のように黙って船体を押さえる側に回るのではなく、

「良かった!私に舫いロープが渡されなくて」

と、望月さんや隆に聞こえるぐらい大きな声ではしゃいでいた。

「そうか。でも、後でテストはしてやるからな」

はしゃいでいるルリ子に望月さんが言った。

「ええ、テストですか?」

「ああ、もうしっかり舫いぐらいは結べるようになったのだろう?」

「ええっと・・。大丈夫です!結べます」

ルリ子は、笑顔で望月さんに答えていた。

「おお、で、雪はどうだ?もやいをしっかり結べるようになったか?」

望月さんは、ラッコのコクピットでお昼ごはんを食べていた雪に声をかけた。うまく隆のかげに隠れて望月さんからすり抜けられたと思っていた雪は、バツが悪そうだ。

雪は、先週、もやい結びを教えてもらってから、望月さんにすっかり覚えられてしまっていた。

「大丈夫よね、もうすっかり出来るから。今日、タックもさんざん練習して出来るようになったし…」

雪が答えづらそうだったので、代わりに麻美が、望月さんに答えた。

「そうか。麻美さんの太鼓判があれば、もう大丈夫だな」

望月さんは、笑顔で言った。

舫い結びテスト

「で、こっちに来てやってみな」

望月さんは、自分の船の、暁のライフラインにぶら下がっていたロープを手に取ると、ルリ子と雪を船の左舷側に呼んで、そこにあるライフラインにロープを舫い結びで結んでみるように言った。

2人は、船の左舷にやって来ると、望月さんから受け取ったロープを、ラッコのライフラインに舫い結びで結んだ。

「こうだったかな・・」

雪の方は、少し不安そうではあったが、ロープで作った穴の中にくるっとロープの先を通して、なんとか結べていた。

「おお、そのクルッと輪っかを作って結ぶ方法を覚えたのか」

望月さんは、雪の結ぶところを見て言った。

「その方法を覚えたのならば合格だ!」

雪は、甘々の麻美の合格点だけでなく無事に望月さんの合格点も頂くことができたのであった。

「で、そっちは・・」

望月さんは、ルリ子のほうを振り返った。

「え」

ルリ子は、少し慌てたように、望月さんに返事した。

「大丈夫です!」

元気に答えてはいたが、返事とは裏腹に、ロープを結ぶ手の方は、なんとなくおぼつかなかった。

「そっちから通すのか?」

「え?」

ルリ子は、ロープを通していた手を止めて、望月さんの方を見た。

「あ、こっちだ。こっち!」

ルリ子は、何か思い出したように、今まで通していたのとは逆向きにロープを穴に通した。そして、きゅっとロープを引っ張った。すると、ライフラインにしっかりロープは舫い結びで結ばれていた。

「あ、出来た!」

ルリ子は、嬉しそうに望月さんに自分の結んだロープを見せた。

「まあ、少し怪しいができたな!」

望月さんは、苦笑しながらルリ子に答えた。

「もう1回結んでみるね」

ルリ子は、1回結べたロープを解いてから、もう一度ライフラインに結び直そうとしていた。今度は、ど忘れしてしまったのか、最初からうまく結べなくなってしまっていた。

暁のクルーたちは、苦戦しながらも笑顔のルリ子に微笑んでいた。

「こっちをこうだろう」

望月さんが、ルリ子の持っているロープに手を少し差しのべてくれた。

「あ、こうだよね!」

そう言って、望月さんに手伝ってもらいながらも、ルリ子はもう一度うまく舫い結びを結ぶことができた。

「うーん、どうかな、合格点は」

望月さんが、ルリ子の笑顔を覗きこみながら苦笑していると、

「でも、ほら、望月さん。ルリちゃんは、きょうのお昼のおにぎりもこんなに上手に握れたんだよ」

麻美が、望月さんに助け船を出した。

「ああ、このおにぎりは、ルリ子が握ったのか?」

「ええ。ルリちゃんと佳代ちゃんの2人が握ったの」

麻美が望月さんに言うと、

「そうだな。舫いを結べるようになるのも大事だけど、ヨットでは食事も大事だからな。おにぎりを握れるのも大事だ」

望月さんは、麻美に言った。

「よし、とりあえずルリ子も合格だ」

望月さんからルリ子も合格点をもらうことができた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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