三崎港、入港

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第199回

斎藤智

暁は、観音崎をこえて順調にセイリングを続けていた。

「もう一杯、おかわりは?」

麻美は、ルリ子に聞いた。

「うん、それじゃ少しだけ」

麻美は、ルリ子のお皿にカレーライスを盛りつけてあげた。

「私もほしい」

雪が自分のお皿を差し出した。

麻美は、雪のお皿も受け取ると、カレーライスを盛りつけた。

皆は、お昼ごはんを暁のデッキ上、コクピットで丸く囲んで食べていた。

雪は、片手でティラーを握りながらの食事だった。

麻美は、ちょうどコクピットのキャビン入り口のところの窪みに、腰かけて食べていた。

「ここが便利なのよ」

ちょうどキャビンとコクピットの中間なので、ギャレーに食事のなにかを取りに行くのに便利な場所だった。

入り口の脇の棚に、炊きあがったお米の入ったお鍋を置いて、皆からおかわりの依頼が来たときに、そこからよそっていた。

麻美は、隆のお皿にもカレーライスをよそってあげた。

「給食のおばさんみたいだね」

キャビンの入り口から上半身を出して、皆のカレーを配っている麻美を見て、隆はお皿を受け取りながら言った。

「隆、一言多いよ」

麻美は、ポンと隆の頭を叩いた。

「私、食べ終わったから、ティラーを代わろうか?」

洋子は、片手でティラーを握りながら食べている雪に言った。

「ああ、お願い」

雪は、洋子とティラーを交代した。

「洋子ちゃんは、カレーライス一杯だけでいいの?」

「うん。私はもうお腹いっぱい」

洋子は、ティラーの操船をしながら答えた。

「洋子は、スマートだから少量でもお腹いっぱいで足りるよな」

隆が言った。

「そうか。私、ぽっちゃりだから二杯食べないと足りないのか…」

ルリ子が、自分の少し膨らんだお腹を揺らしながら笑顔で言った。

「でも、ルリ子ぐらいのぽっちゃりは可愛いよ」

隆に言われて、ルリ子は少し嬉しそうにしていた。

ルリ子は、男性から自分のことを、ぽっちゃりとか言われても全然気にしない性格だった。むしろ、皆にかばわれるのが嬉しくて、にっこりと返す辺りが、ほかの横浜マリーナの男性会員たちからも人気があった。

「麻美。場所を代わろう」

隆は、食べ終わったお皿を麻美に渡しながら、隆が言った。

「隆、ここがいいの?」

「そこで食事の後片付けをするから」

「隆が食事の後片付けをしてくれるの?」

隆は、佳代やルリ子とお皿の片付けをし始めた。

「麻美は、やらなくてもいいよ」

麻美が片付けの手伝いをしようとすると、隆に断られた。

「麻美は、ティラーがうまく握れないんだろう。洋子のところに行って、ティラーの操船の仕方でも教えてもらってきな」

隆に言われて、麻美はティラーを握っている洋子のところに行った。

「洋子ちゃん、教えてくれる?」

「うん。一緒に握ろう」

洋子は、ティラーを半分、麻美にも持たせると、一緒に操船をしながら、ティラーでのヨットの操船のやり方を麻美に教え始めた。

「このティラーってむずかしいね。ラッコのハンドルと違って、回した反対側に船が周っていくのだもん」

麻美が必死でティラーを扱いながら言った。

「麻美ちゃん、ラッコはハンドルじゃないよ。ステアリングね」

洋子が訂正した。

「そうね、ステアリング。隆に聞かれたらまた怒られちゃうね」

麻美は苦笑した。

久しぶりの三崎

暁は、剣崎を越えて、もうまもなく三浦半島の突端、三崎に到着する。

「そろそろ、三崎港に入港か」

隆は、舵を握っていた佳代と舵を交代して、入港準備に入った。

「麻美は、ティラーをできるようになったのか?」

隆は、麻美に聞いた。

「できるようになったよね」

麻美が洋子に聞くと、洋子も頷いた。

「たまに、どっちに動かすかわからなくなってしまうことがあるけど…」

麻美はつけ加えた。

「この船の揺れにも、だいぶ慣れてきたわ」

暁の横揺れにも、慣れてきたようだ。

「やっと慣れてきたと思ったら、もう到着なんだね」

「いいよ。じゃ、今年の夏休みのクルージングは、暁を借りて、このヨットで出かけようか」

隆が言った。

「いや、クルージングは、ラッコのほうがいいよ」

「このヨットじゃ、全員ちゃんと寝れる場所がないじゃない」

ルリ子とかが言った。

「アンカー打つ?」

洋子が隆に聞いた。

「どうなんだろうね?普段なら一泊だけだから、横付けで済むんだけど…」

隆は答えた。

「今回は、来週までここに停泊させるだろうから、港内入ってからどうするか決めよう」

暁は、三崎の港内に進入していった。

白い漁協のうらりという建物が見えてきた。

隆が、その建物の前の岸壁にヨットを近づけていくと、岸壁から手を振っている人の姿があった。

「望月さんじゃない」

麻美が、その人に気付いて、手を振り返した。

「こっち!」

望月さんは、隆たちに岸壁から停泊する場所を指示している。

いつもならば、うららの建物の前の岸壁に横付けしているのだが、一週間停泊するので、一番奥の漁船が停泊している間に、停めることになっているらしい。

「アンカーを落とそうか」

隆は、洋子に言った。

洋子は、バウ、船首のロッカーからアンカーを持ってくると打つ準備を始めた。

「大丈夫?重くない」

麻美と雪が、洋子が持っているアンカーを運ぶのを手伝う。

ラッコだと、隆のアンカーレッコーの合図に合わせて、ルリ子がアンカーを落とすボタンを押すだけなのだが、暁では、手動でアンカーロープをアンカーにセットして、手で下ろさなければならなかった。

「アンカーレッコー」

隆がティラーを操作しながら、かけ声をかける。

洋子が、そのかけ声を聞いてアンカーを落とす。

アンカーは、無事に落ちて、暁は三崎港に停泊した。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。