この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第211回
斎藤智
ラッコとマリオネットは、三崎港に入港した。
ちょうど、三崎港の漁協が運営する〝うらり〟の前の岸壁が空いていたので、そこに船を舫った。
二艇が停泊した岸壁の少し前に、ハル、船体が三重になっているトリマラン船型のヨットが停まっていた。
普通のヨットよりも、船型が三重で幅が広く、特殊な形をしているので目立っていた。
「あのヨットって、もしかしたら」
麻美が隆に聞いた。
と、そのヨットから出てきた女性がラッコのところにやって来た。
「あけみちゃん!」
ラッコのメンバーは皆、その女性を見て叫んだ。
「お久しぶりです、麻美ちゃん結婚したんだって」
あけみが言った。
「あけみちゃんは新婚クルージングはいかがでしたか?」
「良かったわよ。千葉の港をあっちこっち巡ってきて」
あけみは、麻美に報告していた。
「麻美ちゃんは、結婚式したの?麻美ちゃんのウエディングドレス姿は見たかったな」
「私は、式はしていないんです」
麻美は答えた。
「え、どうして?また隆くんが式は面倒くさいからしないとか言ったんじゃないの」
あけみが聞いた。
「もう、隆くんったらどうしようもないな!私が怒ってあげようか」
「え、そうじゃなくて・・」
麻美は、苦笑しながらも、あけみと話せるのが嬉しかった。
ラッコのデッキ上に立っている麻美と岸壁に立っているあけみは、ずっと立ち話をしていた。
「お二人さん、立ち話もなんですから、コーヒー淹れましたから、中にいらしゃいませんか」
キャビンの窓を開けて、隆が中から顔を出して、二人を誘った。
「あ、そうよ。中に入って、入って」
麻美も、あけみにキャビンに入るように誘った。
そして、麻美とあけみは、ラッコのキャビンの中に入ってきた。
「あ、コーヒーの良い香り」
あけみは、キャビンの中に漂うコーヒーの香りを嗅いで言った。
「相変わらず、ラッコのキャビンは豪華で快適ね」
「このコーヒー、隆さんが淹れたんだよ」
ルリ子が言った。
「そうなの、いただきます」
あけみに、麻美もキャビンのダイニングに腰かけ、カップのコーヒーを飲んでいた。
豪華なお料理
「夕食どうする?」
麻美が皆に聞いた。
「三崎だから、またどこかでマグロ?」
「うん。でも、なんかここで食べたくない」
「そうだよね」
皆は、ラッコのキャビンの中で話していた。
「それじゃ、すぐ目の前の〝うらり〟でマグロ買ってきて、中で食事作ろうか」
麻美が皆に提案した。
「それがいい!」
今夜の夕食は、キャビンの中で料理して食べることになった。
「それじゃ、買い出しに行こうか」
隆が言った。
「隆は、お買い物が好きだよね」
「いや、クルージング出ると、その地元のお店とか覗くの楽しくないか」
「楽しい!」
隆の言葉に、洋子が賛成した。
「麻美ちゃん、私たちは残って、中でお野菜切ったりする?」
あけみが麻美に聞いた。
「私、行かないとだめなの。お買い物」
麻美が隆に聞いた。
「そうなの?」
「なにしろ、お財布持っているの麻美だからね」
隆が、麻美に答えた。
「そうなんだ」
あけみが麻美に聞いた。
「そうなの。隆は、最近本当にお財布持って出ないよね。私にぜんぶ払わせて」
麻美が、隆の頭をたたきながら言った。
「そうか。それは麻美ちゃんが家計をすべて握っているってことじゃないの」
あけみが、麻美に笑って言った。
「そうなのかな?そうだったら良いかもしれないけど、そうでもないんだよね」
麻美は、苦笑した。
「こんにちは」
お買い物に出かけようとしていたラッコのメンバーのところに、マリオネットの人たちがやって来た。
「こんにちは」
麻美が返事した。
「マリオネットさんたちは、今夜の夜ごはんどうするんですか?」
「そう、どうしようかな?と思って、今来たんですよ」
中野さんは、麻美に言った。
「だったら、マリオネットさんたちも皆、ラッコでごはんにしませんか?」
麻美が提案した。
「ちょうど、あけみちゃんたち夫婦も一緒に食べるし」
「そう、じゃあ、そうしようかな」
今夜は、マリオネットさんたちも一緒に食事することになった。
これで、今夜はラッコ、マリオネットに、あけみ夫妻と3艇の船が一緒に合流することになった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。