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マリオネットのメンバー

マリオネットのメンバー

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第45回

斎藤智

マリオネットの乗員は、ヨットは素人だったが、陽気なメンバーが多かった。

艇長は、オーナーの中野さん。

ボースン、一番クルーは、白井さんといった。

白井さんは、20代後半の色黒の男性で、5年ぐらい前に初めてマリオネットに乗せてもらって以来、ずっとクルーとして乗り続けている。5年も乗り続けているので、もうヨットのことはなんでも知っている大ベテランに見られてしまうことも多かったが、

ときどき舫い結びやアンカーの仕舞い方がわからなくなってしまうことがあって、よく横浜マリーナでマリーナ内の作業をしているときにも、未だに、他のヨットのオーナーさんにまで、もう5年も乗っているのに…と怒られてしまっていることがあった。

本人いわく、5年乗り続けているといっても、仕事の関係で毎週必ず乗れているわけではないので、次に乗るときまでに間隔が空いてしまうので、前回せっかく覚えたことも忘れてしまうらしかった。

あと、他には男性が2名、女性が1名のクルーがいた。

3人とも、ラッコのクルーと同じ横浜マリーナのヨット教室の同期で、今年の春からヨットに乗り始めたばかりだった。

男性のほうは、松尾くんと坂井くんといった。

女性のほうは、坂井さん。

二人は、ご夫婦だった。ご夫婦だからといって、夫が申し込んだヨット教室で配属になったヨットに、奥さんを誘ったというわけではなく、二人ともそれぞれ別にヨット教室に申し込んで参加したのだった。

「どっちが先にヨットをやってみようと言いだしたんですか?」

夕食を終えたラッコのメンバーたちが、ばんやから自分たちのヨットに戻って来て、キャビンの中でくつろいでいると、隣りに舫っていたマリオネットのメンバーたちが、ラッコのキャビンに遊びにやって来た。

「私です。最初は夫ではなく、近所の友人と参加するつもりだったんですけど…」

隆に聞かれて、坂井さんの奥さんのほうが答えた。

「妻からヨット教室のパンフを見せてもらったときに、こんな楽しそうなこと、俺も一緒にやってみたいって思って、二人分申し込んでもらったんです。いつかは、自分たちのヨットを買って、夫婦でクルージングに出かけてみたいと思っています」

坂井さん夫婦は、自分たちの夢を語っていた。

夜の宴会

その夜の宴会は、遅くまで続いていた。

ラッコの船体は、幅広で普通のヨットよりもずんぐりしている。

そのおかげで、他の同サイズのヨットよりもキャビンの中はかなり広く快適だ。ずんぐりむっくりした重たい船体は、セイリング時にはあまりスピードが出ず、ヨットレースなどに参加しても到底、上位などなかなか狙えない。

しかし、この広い快適なキャビンは、クルージングに出かけた時の船内での生活を豊かなものにしてくれていた。その豊かさが、思わずマリオネットのメンバーの長居につながってしまっていた。

マリオネットのメンバーの平均年齢は、ラッコの平均年齢に比べて少し高い。

ラッコのキャビンには、パイロットハウスの部分とそこから一段下がったところの二か所にサロンがある。

それぞれのサロンに、自然とマリオネットのメンバーを含む年長組と年少組に別れていた。

年長組は、マリオネットのメンバーに、雪と麻美を加えたメンバー。

年少組には、佳代、洋子、ルリ子に隆を加えた4名だ。隆は、年齢的には麻美や雪に近いが、洋子と仲が良いのとお酒をあまり飲まないということもあって、年少組に混じっていた。

お酒を飲む方の組は、夜が更けていくに従って、だんだん元気になっていく。反対に、お酒を飲まないほうの組は、遅くなってくると同時に、だんだん眠くなってきていた。

「お先に寝るよ」

隆は、麻美に言った。

麻美は一人、年長組の話の輪の中から離れて、年少組の子たちのベッドメイクの面倒をみていた。

「皆、ちゃんと自分の寝る場所を確保できているかな」

麻美は、クルーの子たちに声をかけた。

ギャレー脇のサロンのテーブルを下に下げて、その上にクッションを置いて、サロンを二人が寝れるダブルベッドに模様替えする。そこにシーツ、布団を敷いてベッドメイクを完了する。そこでは、洋子とルリ子が並んで寝ることになった。

フォアキャビンのバースには、雪が寝れるように、麻美はベッドメイクをした。

「佳代ちゃんは、あたしたちと一緒に後ろで寝ましょう」

麻美は、佳代を連れて、一番船尾のキャビンに移動した。

そこにはもう既に隆がいて、パジャマに着替え終わって、ベッドメイクをしていた。

「佳代ちゃんも、あたしたちと一緒に寝るから」

船尾のダブルベッドは、わりと広めなので、小柄の佳代が中央に寝れば、三人で川の字で寝ても、スペースにまだかなりの余裕があった。

「おやすみなさい」

佳代もパジャマに着替え終わって、隆の横に寝転がった。

「おやすみ」

麻美が二人に言った。

「麻美は、まだ寝ないのか?」

「だって、マリオネットの皆さんがまだ飲んでいるし、私まで寝てしまうわけにはいかないでしょう」

「御苦労さま」

隆と佳代が寝てしまうと、麻美はパイロットハウスのサロンに戻って、マリオネットのメンバーたちの話の輪に加わった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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