この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第151回
斎藤智
「5月のクルージングはどこに行こうか?」
そう聞いたのは、隆だった。
八景島から横浜マリーナに戻り、ヨットを艇庫に仕舞い終わってキャビンでゆっくりしていたときだった。
「クルージング?」
香織は、隣りの席の洋子に聞いた。
「クルージングっていうのは、ヨットで旅行に行くこと。5月は連休があるでしょう」
「ヨットで旅行するの?」
「うん。この辺の近所だけど、ヨットで行って、夜は港に入れて、その港で停泊してキャビンの中でお泊まりするのよ」
香織は、洋子から聞いて、なんだか楽しそうと思った。
「島に行くのは、5月はけっこう風が吹いて大変だから、熱海にでも行こうか?」
隆は、麻美に聞いた。
香織は、隆が熱海に行くというのを聞いて、そんな遠くまで行けるのかと驚いていた。
洋子が、この辺の近所と言っていたので、横浜マリーナの近く、今日出かけていった海の辺りをぐるぐる周ってくるだけだと思っていたのだ。
「熱海だったら、横浜マリーナから行くのにも、遠すぎず近過ぎずでちょうど良い距離かもね」
「風の向きも、わからないけど、けっこうアビーム系で走りやすいかもね」
隆の案に、洋子や雪が答えた。
「いいんじゃない、熱海。温泉もあるし…」
雪や洋子が、ヨットの風向きなど走りを気にして答えるのに対し、麻美は、ヨットの走りとはまったく関係のない温泉で、熱海行きに賛成していた。
まだヨットに乗りはじめて間もない香織も、温泉とか遊園地もあって、熱海楽しいかもと賛成していた。
「香織ちゃーん」
横浜マリーナの前のクラブハウスで、おしゃべりしていたラッコの面々のところに、走って来たのは美幸だった。
「あら、どうしたの?」
麻美が美幸に言った。
「片づけ終わったの」
美幸は、大きなバッグを抱えて走ってきていた。
「片づけってマリオネットの?」
「うん」
マリオネットもヨットを艇庫に片付け終わって、本日は解散になったようだった。
「私たち、5月の連休は、熱海に行くのよ」
香織が美幸に言った。
「熱海、いいな!私も行きたい」
美幸が、香織のことを羨ましそうに答えた。
「たぶん、マリオネットさんもいつも一緒だから、今回も一緒に熱海に行くんじゃないかな」
麻美が美幸に言った。
「よかったね。一緒に温泉に入ろうね!」
「うん!熱海は、すごくいい温泉のあるホテルがあるんだよ」
香織と美幸の二人は、手をつないで喜んでいた。
先週も、横浜マリーナのヨット教室の講義で会っていたのかもしれないが、実際に話すのは、今日が初めてだったのだが、二人はもうすっかり仲良くなっていた。
その後、30分ぐらい美幸も、ラッコたちメンバーと一緒に、ラッコのデッキでおしゃべりをしていた。
「そろそろ帰ろうか?」
隆が自分のバッグを肩に背負って、立ち上がった。
「うん、帰ろう」
洋子も、自分のバッグを持って立ち上がった。
ほかの皆も立ち上がると、横浜マリーナのゲートをくぐって出ると、いつものように車に乗って家路についた。
いつもと同じなのだが、今日は香織と美幸も一緒だった。
麻美が、隆の愛車、エスティマの運転席に座って運転し、横浜マリーナの駐車場を出発した。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。