豪華なヨット

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第114回

斎藤智

中島さんのヨットの中に入って、隆たちは驚いていた。

進水したばかりのヨットということで、中のソファやベッドには、まだしっかりビニールが掛かっていた。

「新艇の良いにおいがする」

進水したばかりの新しいヨットの独特ないい匂いがしていた。

「うちのヨットには、もう無くなってしまった良い匂いだな」

隆が言った。

「本当。良い匂いするわね」

「ラッコさんって、もう進水してどのぐらい経つのかな?」

「えーと、1月に進水しているので、そろそろ1年になりますかね。早いな」

「1年ならまだまだ綺麗でしょう」

中島さんは、隆に言った。

「でも、進水時のこの良いにおいは、確かにしなくなっているかもね」

「ラッコも進水したときって、この船のような匂いがしていたんだ」

「そう、それが、いつの間にかルリ子の匂いとかで消えてしまったんだ」

「私?私、そんな変な匂いさせていないよ」

ルリ子は、笑顔で冗談を言っている隆の腕を叩いた。

「それにしても、うちの船よりもぜんぜん豪華だよね」

麻美が、中島さんの新艇の中を歩き回りながら言った。

船内は、いたるところに木工で細工がされていて、トイレの中ひとつでも、ほかのヨットのトイレよりもすごく豪華に見えていた。

「トイレの便座も、木工でできている!」

「シャワールームも、なんか豪華!アメリカ映画に出てくるシャワールームみたい」

ルリ子が、トイレの中を覗きながら叫んだ。

「ルリ子も、ここでシャワー浴びたら、ハリウッド女優みたいになれるかもよ」

「浴びてみるか?タオルもここにあるからシャワー浴びてもいいぞ」

隆と中島さんは、ルリ子に言った。

「え、私じゃ、ハリウッド女優は無理だからやめておく」

ルリ子は、自分のお腹の肉をつまんでみせながら、苦笑していた。

新しいヨットの乗り心地

お昼も食べ終え、一休みしたので、横浜マリーナに戻ることになった。

「さあ、帰ろうか」

隆たちは、中島さんの新艇から自分たちのヨット、ラッコに戻った。

もやいロープを外して、横浜マリーナに帰る準備を始めた。

中野さんたちマリオネットのクルーは、マリオネットに戻って出航準備をする。

ルリ子が、パイロットハウスでエンジンをかけて、出発する。

「よし、エンジンも掛かったし、出発するか」

ラットを握っている隆が言った。

「麻美ちゃんたち、まだ戻って来ていないよ」

洋子が、隆に言った。

洋子に言われて、隆が麻美のことを探すと、麻美と佳代の二人だけ、まだ中島さんの新艇に乗ったままだった。

「帰り、こっちに乗っていかないか?」

ラッコに戻ろうとしていた麻美は、中島さんに誘われていたのだ。

中島さんの船は、乗員が3人しかいないし、どうせ三艇とも皆、同じ横浜マリーナに戻るのだから、一緒にこっちに乗っていかないかと誘われたのだった。

「佳代ちゃんも、一緒にこっちに乗って帰らない?」

ライフラインのロープを飛び越えて、ラッコに乗り移ろうとしていた佳代の背中のズボンのベルト通す穴に、自分の指を引っかけて、麻美は佳代を呼びとめた。

「うん」

新しいヨットにも乗ってみたかった佳代は、麻美に誘われて、嬉しそうに頷いた。

「麻美!出発しちゃうぞ!」

隆は、ラッコのコクピットから麻美に向かって叫んだ。

「あたしたち、こっちに乗っていくから、向こうに着いたら横浜マリーナで会いましょう」

麻美は、隆に返事した。

中島さんの船は、麻美たち二人を乗せたまま、八景の港を出港していった。

「麻美ちゃんたち、向こうに乗って帰るんだ」

「いいよな。新しいヨットに乗って帰れて…」

隆が言った。

「俺も、向こうに乗って帰りたかったな」

「隆さんが、向こうに乗って帰ったら、ラッコが帰れなくなちゃうじゃない」

「俺いなくても洋子がいるから、大丈夫だろう」

隆は、笑顔で洋子に聞いた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。