この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第80回
斎藤智
その日の夜、麻美は、電話で洋子と話していた。
「そうなのよ。隆ったら、仕事残っているというのに、ヨットのほうが大事とかって言っちゃって、まるで子供みたいでしょう」
洋子は、麻美から会社での隆のことを聞いて、笑ってしまった。
「そんなに忙しかったんだ」
「そう。仕事が多すぎて、隆は明日の土曜日だけで全部終わらせるなんて言っているけど、はっきり言って無理だから。日曜日は、私たちはヨットには行けそうもないのよ」
「そうか。残念だけど、仕事じゃ仕方ないよね」
洋子は、麻美に言った。
「今度の日曜日は、洋子ちゃんたちはどうする?」
「うーん。隆さんがいないと、私たちだけじゃ、ちょっとヨットを出すのはできないから…」
「洋子ちゃん、ヨットがうまくなってきているから、きっと来年ぐらいには、隆がいなくても、洋子ちゃんが中心になって出航できるようになっているよね、きっと」
本当に自分がそうなれるかどうかはわからないが、麻美に言われて洋子は、なんとなく嬉しかった。
「今度の日曜日は、ヨットは出さないけど、ほかの皆と横浜マリーナに行って、クルージング後の片づけとかしながら、船の中でのんびりしていてもいい?」
「もちろん、いいわよ。マリーナに預けてあるヨットの鍵の場所知っているよね?」
「うん、わかる」
洋子が、さっき隆に電話したときは、隆からは、ヨットに行くと聞いていたが、今の麻美の電話で、どうやら今度の日曜は、隆と麻美は、ヨットには遊びに来れそうもないってことがわかった。
ほかのメンバーは、洋子をはじめ、雪、ルリ子、佳代も予定は空いていたので、船は出さないけど、ヨットに遊びに行くことになった。
「お昼ごはんとか大丈夫?私、お弁当作るから、会社に行く前に、洋子ちゃんとどこかで会って渡してあげようか?」
「え、大丈夫よ。マリーナにお弁当売っている売店もあるし、ショッピングスクエア内のスーパーで材料を買ってくれば、ヨットのギャレーでもお料理できるから、皆で作るよ」
「そうよね。洋子ちゃんもお料理上手だものね」
麻美は言った。
隆は、まだ土曜日じゅうに仕事は全部終わらせて、日曜には、横浜マリーナに遊びに行くつもりでいたが、麻美たち女性陣の間では、すっかり隆と麻美は、お休みで、ほかのメンバーたちだけで遊ぶ予定で話は、しっかり進んでいた。
結局、仕事。。
日曜日、隆は結局、会社にいた。
土曜日に、夜遅く10時過ぎまで頑張ったのだが、全ては終わらなかったのだ。
「はい。もう疲れたし、一回家に帰って休んでから、明日また続きをやろう」
明日の日曜日は、ぜったいに横浜マリーナに行って、ヨットを出したい、海で遊びたいと思っている隆は、まだたくさん残っている仕事をなんとか土曜日じゅうに終わらせるんだと、まだ仕事の手を休めていなかった。
「ほら、もう疲れているじゃない。家に帰って休んで、明日また、続きをやろうよ」
麻美は、隆の手を抑えながら、言った。
隆は、麻美に言われて、渋々、仕事の手をやめて帰宅した。
そして、次の日の日曜日、隆は、横浜マリーナには行かずに、会社にやって来たのだった。
「ちゃんと会社に来たじゃない」
「そりゃ、そうだよ」
会社で会った麻美に言われて、隆は答えた。
※
「おはよう!」
「おはよう。今日は、隆さんと麻美さんは、ヨットはお休みなんだよ」
洋子は、横浜マリーナでルリ子と会って伝えた。
「うん。昨日、麻美さんに聞いた。隆さんは、ずっとヨットで遊ぶんだって、会社に行きたくないってわがまま言っていたんだってよ」
「ね」
ルリ子と洋子は笑顔で笑った。
佳代と雪も、マリーナにやって来た。
「おはよう」
皆は、マリーナのラッコが入っている艇庫の入り口を開けて、船内に入った。荷物を置くと、船の窓をすべて開けて、船内の空気を入れ換えた。
「クルージングの後で、中がまだ散らかってしまっているね」
皆は、船内の散らかっている荷物を片付けると、ほうきと散りとりで船内の掃除を始めた。
掃除といっても、そんなに汚れているわけではなかったので、一時間もやったら全部片付いてしまった。
掃除が終わると、皆は、お湯を沸かして、お茶を入れると船の中でおしゃべり、女子会を始めだしていた。
隆にとって、ヨットでは単にセイリングするだけでなく、女子会、男子会、男女会なんでも良いのだが、船内でごろごろするのもヨットでやる好きなことの一つだった。
後で、皆がヨットで女子会していたことを聞いたら、羨ましくなって、きっと自分も参加したがったことだろう。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。