遅いお昼ごはん

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第175回

斎藤智

横浜マリーナスタッフが、ヨットをクレーンで上げて艇庫の中に閉まってくれた。

隆たちは、そのヨットの上に上がると、ヨットの後片付けを始めた。

「スピンのたたみ方ちゃんと覚えているか?」

隆は、スピンを片付けていた佳代に聞いた。

「うん」

佳代は返事した。

今日の後片付けは、レースでスピンまでも上げたので、いつもの後片付けよりも大変だった。

皆でワイワイ楽しみながら片付けていると、ヨットに掛っているタラップを上って、美幸がやって来た。

「あら、美幸ちゃん」

麻美は、美幸に声をかけた。

「マリオネットは、もう後片付けは終わったの?」

「うん、終わったよ。今日は、中野さんが夜に用事があるからって皆、レースが終わったらすぐに帰ってしまったの」

「そうなんだ。美幸ちゃんは?」

「私は、早く帰っても、特に予定ないから、麻美ちゃんたちラッコの皆がどうしているかなって遊びに来たの」

「そうか。それじゃ、ちょっと待っててね。片付けが終わったら、ショッピングスクエアにお昼食べに行くから、一緒に行こう」

麻美は、美幸に言った。

美幸も佳代たちが片付けているスピンのところに行くと、片付けを手伝い始めた。

「今日のレースは、マリオネットはどうだった?」

「どうかな…」

美幸は、隆に聞かれても、レースのことはよくわからず曖昧な返事をしていた。

「俺らは、途中まで一番を走っていたんだぞ」

「途中まで?」

「うん。後半で皆に追い抜かれてしまったけどな」

「そうなんだ、残念」

美幸は言った。

「美幸ちゃん、知っている?隆ったら、マリオネットにだけは負けるわけないとか言っていたんだよ」

麻美が美幸にばらした。

「そうなんだ。私、ぜんぜんレースに参加していなかったからよくわからない」

美幸が答えた。

「美幸は、レースではどこを担当していたの?」

「私。どこも担当していない」

「何もしていないの?」

「だって、マリオネットってレースだけじゃなくて、普段から男性クルーの人たちしかヨットのセイルとかやらせてもらえないもの」

美幸が少し不満そうに言った。

「え、そうなの?それじゃ、美幸ちゃんは?」

「ヨットが走っている間は、船の一番後ろに座って見ているだけ」

美幸は麻美に言った。

「で、船をお昼にどこかに停めたら、お料理の担当になるの」

「それはつまらないね」

「うん」

美幸は、麻美に頷いた。

「ラッコは?」

「ラッコは皆、それぞれにポジションをちゃんと担当しているよ。だって、ラッコは、男性クルーって隆しかいないじゃない。あとは皆、女の子ばかりだもの」

「むしろ、男性よりも女性のほうが発言権が高かったりして・・」

「そうか」

美幸は、ラッコが羨ましそうに、麻美に答えた。

「でも、麻美は、何もやっていないけどな」

隆がつけ加えた。

「え、なんで?」

「私がやると、ヨットが下手で皆の邪魔しちゃうから。隆に怒られるのよ」

麻美が苦笑しながら言った。

「そうなの?」

「うん。だから、私も美幸ちゃんと一緒。私も美幸ちゃんみたいに船の後ろに座っていれば良かったかもしれないけど。船の後ろに座っていたら、座っていたで風上に行って、ヒールを押さえろって怒鳴られちゃうんだから」

麻美は笑顔で美幸に告げ口していた。

「さあ、ごはんを食べに行こうか」

皆は、ヨットの片付けを終えると、ヨットを降りて、横浜マリーナのショッピングスクエアの方に歩いて行った。

横浜マリーナのニュー店舗

横浜マリーナのショッピングスクエアには、いつもというぐらい、よく新しい店舗が開いていた。

毎週末、ヨットに乗るために必ず横浜マリーナに来ている隆たちでさえも、

「ああ、こんなところに、こんなお店が出来たんだ」

ってことが度々ある。

そんなニュー店舗情報について、メンバーの中で一番よく知っているのはルリ子と佳代だった。

「来週、あそこのお店でセールやるよ」

ルリ子たちからの情報で、麻美もたまにヨットの帰りに、お買い物に立ち寄っていることもあった。

「どこのお店に行く?」

ルリ子は、皆の前を歩いていて、振り返って麻美に聞いた。

「うーんとね、今日はパスタ、ピザ屋さんに行こうと思うんだけど」

麻美は答えた。

「ピザ屋さん?」

「そう、横浜マリーナのショッピングスクエアの中に最近出来たのよ。ルリちゃん、知っていた?」

「ううん」

「私、ついちょっと前に、花まるマーケットで紹介されているの見たんだ」

麻美は、少し自慢げに言った。

いつもは、ルリ子や佳代に教えてもらって、買い物に来ているので、今日は麻美がお店まで先導していた。

「え、花まるに横浜マリーナが出ていたの?」

「そうなの!私も、テレビで見て、横浜マリーナだってびっくりしちゃって、思わずずっと見てしまったの」

麻美が言った。

「ラッコ、映っていた?」

洋子が聞いた。

「私もヨットが映るかなって楽しみにして見てたんだけど、ヨット、マリーナのほうはぜんぜん映してもらえなかった。ショッピングスクエアばかり映ってた」

「そうだよね。ここってお店の中は、よく撮影に使われているけど、マリーナの方ってあんまり使われないよね」

洋子は答えた。

「今日、行くピザ屋さんってイタリア料理だから、パスタとかもあるんだけど、ピザがおすすめかも。本格的な窯で焼いてくれるらしいのよ」

麻美が説明した。

「花まるで見たんだ?」

隆が麻美に聞いた。

「うん」

「花まるってシブガキ隊のやっくんがやっている番組だろう。朝、やっているのに、会社で働いている麻美がどうして見れるんだよ?」

「うん、会社の社長の隆に言うことじゃないかもしれないけど、うちの秘書室の部屋のテレビって、毎朝、情報を得るためとかって朝ズバ付けているじゃない。あれが終わった後も、若い女の子たちが付けっぱなしにしているから、花まる見れちゃうのよ」

麻美が言った。

「うわ、社長にばれちゃった!もう明日から秘書室のテレビ禁止になちゃう!」

ルリ子が笑った。

「俺、別に気にしないよ」

隆が答えた。

「そうなの」

「だって、テレビ見てても仕事さえ出来ていれば良いじゃない。俺もながら族だから、テレビとかラジオが付いているほうが仕事しやすいし」

隆は答えた。

「それに隆も、よく仕事している振りして、パソコンでネットの動画とか見ているものね」

隆は、秘書の麻美にしっかりばれていた。

皆は、おしゃべりしながら、花まるで紹介されたイタリア料理店の店内に入った。

お店の入り口には、メニューの脇に花まるで紹介されましたと宣伝が書いてあった。

店内には、窯で焼かれたパンの匂いが漂っていた。

「美味しそう!」

レース中に、おにぎりを2個も食べてしまった洋子だったが、店内のピザの匂いにお腹が空いてきた。

「今日は、ここで夕食兼用だね」

麻美が皆に言った。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。