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最終レース

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第89回

斎藤智

来週は、横浜マリーナのクラブレースの最終レースだった。

横浜マリーナでは、マリーナに保管しているヨット仲間同士の親交を兼ねて、月一回、クラブ艇同士でヨットレースを開催していた。

月一回のそれぞれのレースでの優勝者、順位を決めて、今回のレースでは、誰が勝った、負けたとかって競争している。

その毎月行われているレースの順位を総合して、シリーズを通して、その年のレースの総合優勝者を決めて表彰していた。

レースといっても、横浜マリーナのクラブレースは、暁たちが参加している各地の本格的なヨットレースとは違い、横浜マリーナに保管しているヨットが、足の速いレース艇、遅いクルージング艇すべてが、入り混じって参加しているもっと気楽なアットホームなレースだった。

ラッコは、ナウティキャットというフィンランド製のモーターセーラーだった。

キャビンの中も木工細工で豪華に重たく造られていて、船内での生活は、快適にできるように設備されているが、その分、船が重たくなっていて、セイリング時には、レースなどでも、ほかのヨットに比べたらスピードは遅かった。

そんなこともあり、ラッコは、はじめクラブレースには参加するつもりはなかった。

しかし、今年はじめのレースのときに、暁の望月さんに頼まれて、クラブレースの本部艇をやってからは、毎月のクラブレースの度に、ラッコが本部艇を担当するようになっていた。

「来週は、今年最後のクラブレースだね」

隆は、来週が最終レースだということに、勝山での夜の宴会で中野さんから聞くまで気づかなかった。

「ああ、そうだったんですね。ぜんぜん気づきませんでした。マリオネットさんは、今までのレースの成績は、上位なんですか?」

隆が、中野さんに聞いた。

「うちの船は、遅いのに上位のわけないじゃない。何位なのか知らないけど、たぶん下のほうでしょう」

中野さんは、お酒を飲みながら豪快に笑った。

「そうなんですか。でも、うちと同じモーターセーラーでも、マリオネットは、けっこうセイリング性能は良いモーターセーラーと思うけど…」

「ええっと、マリオネットさんは、今のところ第27位かな」

ルリ子が、キャビンの棚から出した今年のこれまでのレースの結果が、書かれたレポートを見ながら言った。

毎月の本部艇では、ルリ子がスタート、ゴールの笛を吹いて、各艇のタイムを取る担当をしているので、各艇のレースの順位は、すべて把握しているのだった。

「27位か。まあまあだね。もっと最下位なのかと思ってた」

中野さんは、ルリ子から順位を聞いて、自分でも驚いていた。

北の風

マリオネットは、来週のクラブレースを少し頑張ってみようかなと思っていた。

なにしろ横浜マリーナの全艇中27位なのだ。

ラッコのキャビン内での夜の宴会で、ルリ子に今年の通算のレース結果が、27位だと聞いて、上位を狙ってみたいと思ったのだった。

だが、来週のレースの前に、勝山から横浜、横浜マリーナに戻らなければならない。

「おはよう」

翌朝、中野さんは起きてデッキに出ると、ラッコのデッキ上で話していた隆と洋子に声をかけた。

「おはようございます」

「今日の風はどうかな?横浜まで戻るのに最適な風かな」

中野さんは、背伸びして港の外の海を眺めながらつぶやいた。

「だめみたいですね。真北の風ですよ」

隆も一緒に、海を眺めながら言った。

勝山は、千葉の房総半島、内房の中央よりやや下に位置する。

そこから横浜マリーナのある横浜に戻るには、北に向かって東京湾を北上していかなければならない。

9月、10月の東京湾の風は、よく強い北風が吹く。その中を北上するには、風に向かって行かなければならないのだ。

「朝ごはん、出来たよ」

キャビン内から麻美が顔を出して、デッキの皆を呼んだ。

ラッコの乗員だけでなく、マリオネットの乗員たちも、ラッコのキャビン、サロンに集まって朝食になった。

「真北の風だから、前からぴゅーぴゅー冷たい強い風が大変だぞ」

「合羽を着用しておいたほうがいいかな」

皆は、出航前に、しっかりヨット用の雨合羽を着用した。

ヨット用の雨合羽は、濡れても、水が体内に入って来ないように、しっかり防水仕様になっている。オーバーオールになっているボトム、ズボンを着て、さらに上にフードの付いた合羽を着用する。靴も、防水仕様のヨット用ブーツだ。

「ルリちゃん、似合うじゃない。かわいい」

全身、完全防備で、まるで着ぐるみを着ているような姿になったルリ子を見て、麻美は笑顔で言った。

佳代は、手が背中に届かなくて、うまく合羽が着れずにいたので、麻美が着用を手伝ってあげた。

「出航するぞ!」

同じく完全防備の隆が、ラッコのステアリングを握りながら、皆に声をかけた。

アンカーを上げて、港を出て、北風吹く少し荒れぎみの海の中に、ラッコとマリオネットは出ていった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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