クルージング最後の夜

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第62回

斎藤智

その夜のラッコの船内は、賑やかだった。

楽しかったクルージングだったが、明日は、横浜マリーナに帰るので、乗員はクルージング最後の日を楽しんでいたのだった。

マリオネットの乗員も、ラッコの船内にやって来て、皆でお酒を飲んで楽しんでいた。

「本当は、もう少し日程があったら、大島の中を観光したいんだけどね」

隆は、洋子に話している。

「大島は、ほかの伊豆七島よりも大きいし、三原山やリス村とか観光スポットが多いんだよ」

「行ってみたいな」

フォアキャビンにあるトイレに行っていたルリ子が、戻って来て二人の話に加わった。

「また、来ればいいじゃない」

麻美が、隆に言った。

「そうだよな。大島ならば三連休でも、ちょっと頑張れば、ヨットでも遊びに来れるものな」

「三連休でも来れるんだ!それじゃ、9月に連休あるから、また来よう」

洋子に言われて、隆もすっかり行く気になっていた。

「なんかクルージングって楽しい!」

「同感」

4月から横浜マリーナのクルージング教室でヨットは生まれてはじめてやったばかりだったが、皆もうすっかりヨットの魅力にはまってしまっていた。

「ラッコの生徒さんは皆、定着率がいいですね」

マリオネットの中野さんが、隆に言った。

普通は、クルージング教室で生徒を募っても、はじめの2、3回乗りに来るだけで、後は全く来なくなってしまう生徒が多いのだとか。

「うちは、誰もクルージング教室始まってから今まで毎週日曜欠かさずヨットに乗りに来ているよな」

隆が、ラッコのクルー皆に言うと、皆は即座に頷いていた。

「それだけ、ほかに何もすることが無いということか」

「そうかもしれない・・」

ルリ子が隆に頷いた。

「みな年頃の女性だというのにね。デートする相手もなく・・」

「寂しい・・」

麻美の言葉に、自虐で答えていたが、寂しいという言葉とは裏腹に、誰も皆、ヨットに乗っていられることが楽しそうだった。

「麻美さんと隆さんは、ご結婚しないんですか?」

坂井さんの奥さんが、麻美に聞いた。

「え、結婚ですか?」

麻美が聞き返した。

「私も、気になっていた。麻美さんと隆さんってつきあっているのかなって」

雪も、麻美に聞いた。

「そうね。結婚っていうか、そもそも、私たちってつきあっているのかな?隆…」

麻美は、隆に聞いた。

隆は、恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら、あ、うん…と誤魔化していた。

「はっきりしないんだ…」

麻美は、坂井さんの奥さんに愚痴っていた。

「隆さん、はっきりしないと洋子が狙っているよ」

雪が、笑顔で隆のことを茶化した。

「わたし?」

洋子は、突然、雪から自分に振られたので、驚いていた。

「さあ、飲もう!」

その日の夜は、夜遅くまで、ラッコの船内は灯かりがついていて、船内の皆は大声で飲んだり食べたり大騒ぎしていた。大騒ぎしていても、漁港の入り江に停泊しているヨットの船内なので、特に周りに近所迷惑になることもなく、苦情がくることも無かった。

これが、都会の真ん中だったら、

「うるさい!静かにしろ!」

などと苦情の怒号が叫ばれて、こんなに夜遅くまで大騒ぎなど出来なかったことであろう。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。