この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第18回
斎藤智
「もうすっかりヨットのベテランだね」
麻美は、デーセイリングに出かけた後、マリーナに戻って来たヨットから降りたところで、いつもマリーナで一緒になる年輩のおじさんに声を掛けられた。
そのおじさんも、隆と同じヨット好きで、ヨットに乗るためなら、冬の寒さも関係ない人みたいで、毎週のようにマリーナにやって来ては、自分のヨットを出している。
マリーナで毎週のように、一緒になるので、麻美もすっかり仲良くなってしまっていた。
そのおじさんが、ヨット用のオイルスキン、雨合羽の上下に、ヨット用のブーツに身を固めた麻美の姿を見て、声を掛けられたのだった。
「まだまだ、ですよ」
ヨットのベテランのおじさんに誉められて嬉しそうに答えようとしていた麻美より先に、隆がおじさんに答えてしまった。
おじさんの愛艇は、もう既に船齢30年近くになる年季の入った32ftのヨットだ。日本のヨットデザイナーの元祖、横山晃氏デザインのヨットだ。
今のヨットのような洗練された未来的なイメージはないが、ウインチの潮の付き方といい、木部の磨れ方など、なんともいえない味が船体のあっちこっちから感じられる良い感じのヨットだった。
麻美も、隆について一緒に、船内を案内してもらったことがあるが、キャビン内の木部が、ニスでテカテカに磨かれていて、非常によく手入れされていて綺麗だった。
「うちも、こんな風に綺麗なキャビンに仕上げたいわね」
麻美は、隆に言った。
「ラッコさんは、来週のヨット教室の生徒さんは募集するの?」
おじさんは、隆に聞いた。
ヨットの人たちは、名前を呼ぶとき、その人の名前を呼ばずに、その人が所属しているヨットの船名で呼び合うことが多かった。
おじさんの愛艇は、「暁」といった。
麻美も、おじさんの名前は、初対面のときに紹介してもらってはいたが、いつも暁さんと呼んでいるので、本当の名前はすぐには出てこなかった。
横浜マリーナでは毎年、春先から秋口にかけてヨット教室を開催している。そのヨット教室に参加する生徒さんを募集しているのだ。
マリーナとしては、ヨット業界の活性化、ヨット人口の普及のために開催しているのだった。
ヨット教室に集まった生徒たちには、横浜マリーナとして初日だけは一日しっかりと、マリーナのクラブハウスで学科教習を行う。教習が終わると、その後は、実地教習と称して、マリーナに停めている各ヨットに振り分けられて、それぞれのヨットのオーナーさんが、自分のところに振り分けられた生徒たちを、一人前のヨットマンになれるように、クルーとして育て上げているのだ。
隆のヨット、ラッコでも生徒さんを募集するつもりでいた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。