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イタリア料理

イタリア料理

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第108回

斎藤智

コーチヤのレストランの料理は、大変美味しいものだった。

「うわ!きれいな景色!」

雪が、レストランの窓から外を眺めて叫んだ。

「本当ね。きれいな景色」

麻美も、窓の側にやって来て、雪に同意した。

コーチヤのマリーナは、岸壁の少し高くなった位置にあった。

その高くなったマリーナのクラブハウス2階に、レストランは、あるので、窓からは横須賀の海が一望できる。

「どうしたの?何か見えるの」

トイレから戻って来た隆が、麻美たちの後ろに来て、聞いた。

「海が見える景色がきれいなのよ」

「海、海なんて、横浜マリーナのクラブハウスからだって見えるじゃないか」

隆は、答えた。

「横浜マリーナから見える海とは、ぜんぜん違うよね」

「横浜マリーナから見える海は、ヘドロが多いし、周りも工場とかの建物ばかりだもの。それに比べると、ここから見える海は、陸地も緑が多くて、海も開けているし」

「確かに」

隆も、麻美に言われて、改めて窓から見える景色を見直した。

「きれいな海」

トイレから戻って来た洋子とルリ子も、皆が窓から外を眺めているので、つられて窓にやって来て言った。

「横浜マリーナから見える海とは、ぜんぜん違うね」

洋子が、さっき、麻美が言っていたことと同じことを言っている。

「こちらが前菜になります」

ウェイターさんが、食事をテーブルに運んできた。

窓から外を眺めていた皆は、ウェイターの声に呼ばれて、テーブルの席に戻った。

「うわ、料理もきれい」

運ばれてきた料理の前菜は、きれいな飾りの付いたお皿に、きれいに盛られていた。

「イタリア料理っていうけど、おしゃれなフランス料理みたいだな」

隆が、料理の感想を言った。

「美味しいね」

「なんだか、こんな恰好で入店して、申し訳なくなちゃうね」

麻美が、自分の赤いTシャツにジーンズ姿で食べに来たことを後悔していた。

「船尾のオーナーズルームのロッカーに、麻美のワンピース入っていなかったっけ?」

「なあに、今からそれに着替えてこいって?隆のスーツも、あそこに入っているよ」

麻美が、隆に言った。

「え、だめ!麻美ちゃんだけ綺麗な格好してきたら、私たちが目立ってしまうじゃない」

ルリ子が言った。

麻美だけでなく、ほかの皆も、三崎からヨットでセイリングしてきた後なので、Tシャツにジーンズ姿なのだ。

「ヨットで食べにくるお客も多いから、レストラン側も格好については、何も言わないんだろう」

隆が言った。

お帰りなさい

ラッコは、三崎から横浜マリーナの目の前まで戻って来た。

夕方、ラッコだけでなく、ほかの三崎まで行っていたヨットたちも、帰って来たところだったので、クレーンの前は混雑していた。

いつもならば、ほかのヨットがクレーンで上架中の間は、その脇にあるビジターバースに一時停泊して待っていられるのだが、今日は、そこもいっぱいだった。

「皆、一斉に上架するから混雑しちゃってるな」

隆は、クレーンの順番がくるまで、ぐるぐると横浜マリーナの前の海面を周りながら、言った。

「これじゃ、クレーンの営業時間中に上架してもらえないんじゃないか」

「大丈夫よ。まさか、マリーナのスタッフの皆さんだって、私たちを海に放り出したまま、定時で帰ったりしないでしょうから、のんびり待っていましょう」

船尾デッキに腰かけた麻美が、のんびりと佳代の髪をブラッシングしながら、隆に言った。

「佳代ちゃんのお母さんみたい」

麻美の腰かけているベンチの隅に、一緒に座りながら、麻美にブラッシングしてもらっている佳代に、ルリ子が言った。

「だって、佳代ちゃん、可愛いだもの」

佳代の代わりに、麻美がルリ子に答えた。

背の高い麻美に対して、背の低い佳代は、膝に抱えると、ちょうど麻美の膝にすっぽり収まってしまうのだ。

自分の膝にいる佳代のさらさらのショートボブヘアーを、麻美はブラシでブラッシングしていた。

「よし、やっと順番が来た」

隆は、ラッコの艇体を、横浜マリーナのクレーンの中に進めた。

洋子やルリ子などクルーは、クレーンから突き出た出っ張りに、艇体がぶつからないように、艇体の横に行って、艇を支える。

ラッコの艇体は、クレーンの中に収まり、横浜マリーナの職員の操作で、クレーンが陸上にラッコの艇体ごと持ちあがって行く。

「お帰りなさい」

「ただいま」

横浜マリーナのスタッフが、陸に上がった隆たちに笑顔で声をかけてくれる。

「三崎を出て、最初のほうは快適だったけど、横浜に近づいて来たら、急に風が強くなってきて大変だったよ」

隆は、スタッフに本日の航海の様子を報告する。

それを横浜マリーナのスタッフは、笑顔で聞いてくれていた。

航海が大変だったときも、無事に帰って来て報告して、その報告をマリーナのスタッフが笑顔で聞いてくれると、なんとなくホッとできるのだった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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