ハネムーンクルージング

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第195回

斎藤智

麻美は、あけみの真っ白なウェディングドレス姿に感動していた。

「あけみちゃん、ご結婚おめでとう!」

会場の参加者たちに挨拶回りしている水島夫婦に声をかけた。

「麻美ちゃん、ありがとう」

あけみも、麻美のことに気づいて返事した。

二人がニコニコ笑顔で話をしていると、ほかのラッコの皆もやって来た。

「どこに行っていたの?ヨットを片付けている途中でどこかに消えてしまったけど」

隆は、麻美に聞いた。

「麻美ちゃん、かわいいワンピース!」

洋子が麻美の着ている服装に気づいて言った。

「え?そういえば麻美、いつの間にか正装しているじゃん」

洋子の言葉に、麻美が昼間にヨットに乗っていたときと違う服装なのに気付いた隆も言った。

「だって、あけみちゃんの結婚式だからと思って、着替えに行っていたのよ」

麻美は答えた。

「隆さん、麻美ちゃんが正装しているのに気付かなかったの?」

「だめじゃん。隆さんが真っ先に麻美ちゃんが着ているワンピースに気付いてあげなきゃ」

ルリ子や香織が隆に言った。

「そうだよね。俺なんて、あけみが今、何を着ているかは、常に気になっているよ」

皆のところにやって来た花婿の水島さんまで隆に言った。

「そうよね」

「彼女の着ているものは、常に気にしていなきゃ」

「だから、水島さんは、あけみちゃんと結婚できたのよ」

隆は、麻美の着ているものに気付かなかったことを皆に責められていた。

「あけみ、そろそろ着替えてこないと…」

「そうね」

せっかくの真っ白な綺麗なウェディングドレスだけど、着替える時間らしい。

「もう着替えちゃうんだ。残念ね」

「今日一日ぐらいは、ずっと着ていたいよね」

麻美たちが、あけみに言った。

「そうなの。本当は脱ぎたくないんだけど、これからハネムーンに行かなければならないから」

あけみが答えた。

「ハネムーンはどこに行くの?」

「鳥羽まで」

あけみは答えた。

「鳥羽なんだ。もっと遠くに海外とか行けばいいのに」

麻美が言った。

「鳥羽っていっても、電車で行くわけではないもの。水島さんたちは、ヨットで行くんだよ」

隆が麻美に説明した。

「ヨットでハネムーンなの!!」

「それはすごいロマンチックね」

皆は、あけみのことを羨ましそうに見た。

あけみは、皆に羨ましそうに見られて嬉しそうにしていた。

水島さんとあけみさんは、ウェディング姿を着替えるために、奥の部屋に引っ込んだ。

「俺たちも、海の方に移動しようか」

隆たち、結婚式の参加者は、会場の横浜マリーナクラブハウスからマリーナ海上に移動した。

「あれで、ハネムーンか・・」

途中、まだ入り口のゲートが開けっ放しのラッコの艇庫の中を覗きこんだ麻美は、艇庫の中のラッコの姿を眺めながら、ひとり言をつぶやいていた。

そこのポンツーンに水島さんたちのヨット、ドラゴンフライが停泊していて、そこからハネムーンに出発するのだった。

ヨットでハネムーン

ヨットは、すっかりハネムーン用に準備されて海上に浮かんでいた。

「空き缶までくっついているじゃん」

隆が言った。

水島さんたちのドラゴンフライの船尾には、糸で空き缶がいっぱい付いていた。

空き缶は、ドラゴンフライの船尾の海でプカプカと浮かんでいた。

「車だと、空き缶がぶら下がっていると、カラカラと音が出るけど、海の上じゃ、空き缶が付いていても、カラカラ音しないんじゃないかな」

隆は言った。

「雰囲気よ。いっぱい空き缶がぶら下がっていれば、ハネムーンっぽいじゃない」

「そうよね」

いつもだと日曜の夕方は、セイリングを終えて、横浜マリーナのクレーンで陸上に上げてもらって、自分たちの艇庫の中に閉まってあるヨットが、まだ皆、海の上に浮んだままだ。

ドラゴンフライがハネムーンに出航していくときに、港の出口まで一緒にくっついていって、お見送りをしようというのだ。

「俺らも、ヨットを艇庫にしまわなければ良かったな」

早々とラッコを陸上に上げて、艇庫に閉まってしまった隆が言った。

「そうよね」

麻美もドラゴンフライのお見送りができないのが残念そうだ。

「船、もう閉まってしまったんでしょ」

声をかけてきたのは、暁の望月さんだった。

「うちのヨットに一緒に乗って、お見送りに行きませんか」

望月さんは言った。

暁は、まだゲスト用のポンツーンに停泊したままだった。

隆たちラッコのメンバーは、暁に乗せてもらってお見送りに行くことになった。

水島さんとあけみが、普段のジーンズに着替え終わって出てきた。

「いよいよ出航だね」

フェンダーを外したり、ロープを整理したり、ドラゴンフライの出航準備をしている。

麻美も、あけみたちと一緒に、出航準備を手伝っている。

麻美は、普段ラッコでの出航準備は、ギャレーでお昼の準備とかしていて、あまりヨットの艤装関連の準備には携わっていなかった。

その麻美が、今はフェンダーやらロープやら艤装の準備を積極的に手伝っていた。

「麻美ちゃん、珍しいじゃない」

「だって、あけみちゃん、とても素敵なんだもん」

麻美は、結婚式での花嫁姿のあけみに、まだ感動していたのだった。

「ラッコの皆は、うちの船に一緒に乗っていこうよ」

あけみが麻美たちのことを誘った。

「ハネムーンなんてロマンチックだし、私も一緒に行きたいけど、そんなお邪魔できないよ」

麻美が笑顔で答えた。

「ずっとじゃなくて…。港の出口のところまででもいいから」

あけみが麻美を誘った。

「港の出口まで一緒に乗っていたら良いじゃない。港の出口のところで、ドラゴンフライに横付けしてあげるから」

望月さんが言った。

結局、ドラゴンフライの出航時に、隆たちラッコのメンバーは皆、一緒にに同乗していた。

ドラゴンフライが機走で出航して、港の出口のところまで行くと、そこで一緒に走っていた暁が寄って来て、隆たちは、暁のほうに乗り移った。

「じゃあね!バイバイ」

「ハネムーン楽しんできてね!」

ドラゴンフライは、横浜マリーナを去って、ハネムーンに旅立っていった。

「今度は、麻美ちゃんのハネムーンを、私たちがお見送りしたいな」

別れ際に、あけみに言われて、麻美は顔を真っ赤にして照れていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。