この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第5回
斎藤智
こんなものなのかと隆は思っていた。
待ちに待っていた初めてクルーザーに乗れる日曜日が来て、クルーザーに乗った後で、隆はそう感じていた。
子どもの頃、よく自分たちが小さなOPディンギーで港内を走っているときに、その横を大きなクルーザーが通り越して港外へと走っていった。
そのとき、隆はその通り越していくクルーザーを見ながら、いつか自分もあんな大きなクルーザーに乗って外海に出てみたいなと思っていた。
当時、まだ小学生だった隆は、横を通り越して外海に出て行くクルーザーは、毎週、外洋にでてアメリカやオーストラリアなど外国に行っているのだと本気で思っていた。
それから大きくなって、さすがに隆も、クルーザーで毎週、外国に遊びに行っているとは思わなくなっていたが、もう少し沖から離れたところまでは行っていると思っていたのだ。
現実には、日曜日の朝、ヨットハーバーを出航したクルーザーは、港を出ると、出てすぐのところでセイルを上げて、何時間かグルグルと停まっているタンカーの周りをセイリングしてから帰港してしまったのだった。
初めてのクルーザーは、どうだったかとオーナーに聞かれた隆は、もう少し遠出しているのかと思いましたと正直に答えた。
すると、オーナーは大声で笑って、確かにちょっと港から近すぎたかと言った。ただ、隆の想像していた外洋に、ヨットハーバーのある横浜からヨットで行こうと思うと、横浜港を出て、さらに東京湾を南下して行かないといけないらしい。それには、海や気象条件にもよるが、だいたい10時間以上はかかるそうだ。日曜日の日帰りでは、とても行って帰ってこれないらしい。
夏休みになったら、一週間ぐらい休みを使って、隆のいう外洋、伊豆七島のあたりまでセイリングで行くから、ぜひ一緒に行こうと誘われた。
すっかりクルーザーのセイリングに、はまってしまっていた隆は、二つ返事で、ぜったい行きますとお願いをしていた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。