この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第184回
斎藤智
麻美は、自分の家のダイニングで夕食を食べていた。
「私、子ども大好き。かわいいよね」
麻美は、食事をしながら、話している。
月曜日の夜で、仕事を終えて会社から戻って来ての夕食中だった。
昨日、横浜マリーナで子どもヨット教室の手伝いをして、子どもたちとすっかり仲良くなったときの話の続きだった。
「麻美に向いているかもね」
隆が言った。
「あのヨット教室は、ヨットが好きな大人たちがコーチすることで成り立っているヨット教室だから、麻美も、あそこでコーチとして、ボランティアしてみれば良いじゃん」
隆は、麻美に言った。
「そうかな、向いているかな」
「あ、だめだ。麻美、子どもは好きかもしれないけど、ヨットのことが人に教えられるほど、何もわかってなかったわ」
隆が慌ててつけ加えた。
「何よ、それ!」
麻美は、テーブルの向こうの隆の頭を小突くマネをしてみせた。
「私だってね、子どもたちに教えるぐらいならば、ヨットのことわかってはきているつもりだけど。もう3年ぐらい乗ってるし」
「3年も乗ってるんだ・・」
「そうよ、なんか文句ある」
麻美は隆のことを睨んでみせた。
仕事が終わって、そのまま麻美の運転する車で、麻美の家に来て、一緒に夕食を食べているところだった。
このところ、隆は、会社から自宅に戻るよりも、麻美の家に来て、そのまま泊って、次の日に会社に行くことの方が多かった。
隆の家は横浜、会社も横浜、ついでにマリーナも横浜。
隆の生活の基盤は皆、横浜にあるので、別に東京の中目黒にある麻美の家に来る必要もないのだろうが、なぜか会社が終わると、いつも麻美の運転する車に乗ったまま、麻美の家に来ていた。
あ、家も会社もヨットも横浜だが、車だけは東京にあった。
麻美のお母さんが、隆のことを気に入っていて、隆が来ると喜ぶのだ。
隆にとっても、自分の家に戻っても、一人暮らしなので、自分で食事を作らなければならないが、麻美の家ならば、麻美のお母さんが食事を用意して待ってくれているのが楽だった。
お互いにWin-Winというか・・
麻美のお母さんが、まるで隆のお母さんのようでもあった。
「麻美は、小さい頃から幼稚園の先生になりたいって言っていたものね」
麻美のお母さんは、言った。
「いいよ。そんな昔のこと隆もいるのに思い出さなくても・・」
麻美は、自分の母親に恥ずかしそうに言った。
「何言っているのよ。隆さんの前だから、あなたの小さい頃のこととか、いろいろ皆知ってもらって方がいいでしょう」
麻美のお母さんは、麻美に話していた。
「そろそろ、私も、あんたの孫の姿を見たいわ」
麻美のお母さんは、麻美のほうを見て言った。麻美のことを見ながら言いつつも、チラッと隆のほうも見ていた。
「おお、麻美の孫の姿を見れるのか?」
一緒に食事していた麻美のお父さんが、隆のほうをチラッとではなく、じっくり見て言った。
隆は、ちょっと困った顔をしていた。
「毎年、夏に子どもヨット教室で合宿があるんだけど、子どもたちがOPに乗って、横浜マリーナから金沢八景か三浦のあたりまで乗っていて、向こうで一泊か二泊で民宿に泊まって帰って来るんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「そのときには、小さなOPだけで長い距離走るんじゃ危ないだろう。それで、いつも横浜マリーナのヨットが持ち回りで、子どもたちに付き添いでついていくんだけど、今年はラッコで付き添いしようか」
「うん!それ、いいよ、やろう!」
隆の提案に、麻美は賛成した。
ラッコでレースに出ようと言ったときは、雪は大喜びだったが、麻美はそれほどでも無かったのに、ヨット教室の付き添いには大賛成の麻美だった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。