金曜の夜

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第208回

斎藤智

「まだ終わらないの?」

隆が麻美に聞いた。

「ああ、ごめん、ごめん。もう少し」

麻美は、必死でパソコンで仕事を続けていた。

「隆は、もう終わったの?」

麻美は、仕事をしながら隆に話しかけた。

「ほら、もう終わって、電源も切れてるし」

隆は、ノートパソコンをくるっと回して、麻美のほうに向けながら言った。

「え?そうじゃなくてさ。もう仕事はぜんぶ終わったんだ?」

麻美は、昼過ぎに見たとき、あれだけたくさんあった仕事をもう終わらせたのかと思い、隆に聞きなおしたのだった。

「うん。終わった、終わった!あとは、続きは来週かな」

隆は、言った。

「え」

麻美は、まだ残っているというのに仕事をさっさと終わらせてしまった隆のことを見た。

「そうじゃなくてさ、本当に来週にして大丈夫なの?その仕事」

「う、うん」

隆は、あやふやに答えた。

「本当は、残ってるでしょ。急ぎの分の仕事も」

麻美は、隆に言った。

隆は、麻美と目を合わせないようにしている。

「本当は残っているんでしょう!私もこれ終わったら手伝うから、やっていきましょう」

麻美は、隆に命令した。

「麻美は、よくわかったね。終わってないこと」

「それは、隆の奥さんですからね。すぐわかるわよ」

麻美は、結婚したんだからって自慢もこめて答えた。

「はい」

麻美は、隆のパソコンのスイッチをつけて、

「仕事、先に始めていて。私も、自分の仕事終わらせたら、手伝ってあげるからね」

隆は、麻美に言われて、仕事を再開した。

「ふっ、おもしろい」

隆が仕事を再開している姿を見ながら、麻美は思わず吹き出していた。

「隆の仕事を私がやらせて。まるで私が社長で、隆が秘書みたい」

麻美は笑った。

「だって、この後、マリーナに行ってヨットで大島に行くんだよ」

隆は、麻美に言われて、ちょっとふて腐れた顔している。

「はいはい、理由が子どもか」

麻美は、また笑ってしまった。

隆は、必死に仕事をやりはじめていた。

大遅刻!

「うん、そうなの。まだ終わらないのよ」

麻美は、電話で話をしていた。

「うん。今ね、お夜食を買いに、会社の前のコンビニまで行ってきたところ」

麻美は、会社のエントランスで携帯で話していた。

「隆さん、ふくれているんじゃないの?」

電話の向こうから洋子が苦笑いして言った。

「そうなの、よくわかるわね」

「それは、なんとなくね。もう早く帰りたいよとか、今夜はヨットに乗るんだから、仕事なんてもう来週でいいじゃんって」

「そう!まさにそう言っていた」

麻美と洋子は、電話で大笑いしてしまった。

「ともかく、こっちは大丈夫だから、出航の準備だけしておくから、慌てずに来て」

洋子が言った。

「夕食とか大丈夫?」

「うん。あとで皆で横浜マリーナ前のスーパーにでも行って、なんか買ってくる」

「うん、そうして。お金は後で私が払うから」

「え、別にいいよ。麻美ちゃんはそんなこと気にしないでも」

洋子は、麻美に言った。

「それより、そっちの夕食は?」

「こっちはね、鍋焼き弁当。コンビニのだけどね」

麻美は、答えた。

「じゃあ、こっち来てから食べなくても、そっちでお腹いっぱいになっちゃうか」

「うん、そうね」

麻美は、洋子との電話を切った。

電話を切ると、会社のエレベーターがちょうどやって来たので、麻美はそれに乗ると社長室のある最上階まで上がっていった。

「麻美ちゃんたち遅くなるって」

洋子は、電話を切ると、ほかのラッコのメンバーに説明した。

「麻美ちゃんたち、会社で夕食は食べてから来るってさ」

洋子は言った。

「だから、こっちはこっちでスーパーでなんか買って食べてって。だから、出航の準備はしておくからって言っておいた」

「じゃあ、出航の準備はしておこうか」

雪が言った。

「私、スーパーに行って、夕食とかのお買い物して来ようか」

ルリ子が言った。

「じゃあ、私も荷物持ちで、ルリちゃんと一緒にスーパーに行くよ」

洋子と香織が言った。

「それじゃ、ほかのメンバーは出航の準備しておこう」

皆は、それぞれに分担して、クルージングの準備をはじめた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。