最速セイリングクルーザー

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第36回

斎藤智

スローライフは、見た目も派手なセイリング性能が速いヨットだった。

スローライフという船名からは、ちょっと想像しにくいが、船名とは裏腹に流線形のデザインで風を切って走って行くスピーディーなヨットだ。

前回の横浜マリーナのクラブレースには、用事があったのか参加していなかったが、いつも参加すると、常にシリウスと1位を争っている船だった。

スローライフが進水したのは、去年の4月だった。

スローライフのオーナーは、もともとシリウスにクルーとしてずっと乗り続けていた人だ。彼は、ヨットに乗ると、常に周りのほかの船を意識して、ほかよりも速く走りたがる。ヨットには速さを求めていて、常にヨットレースで勝つことを生きがいにしていた。

隆は、ヨットでのんびりセイリングすることを生きがいとしているので、ヨットに関しては、隆とは全く逆の考えを持っている人だった。

そんな丸山さんなので、ボートショーに出かけても、見学するのに長蛇の列で、内装の豪華そうなクルーザーには全く興味がない。

速く走るためだけに設計された、キャビンの中は覗いても何も置いていないような、どちらかというとボートショーでは地味な存在のヨットのほうに引かれてしまう。

一般の見学者があまりいないので、落ち着いてボートを見学できて、そういったヨットが好きな丸山は、ボートショーでは、いつもなんか得した気分だった。

「こいつはすごい!」

そのヨットをボートショーで見た丸山は、思わず独り言をつぶやいてしまった。周りのヨットよりもひときわ背の高いマストに、船体最後部まで大きく伸びたブームに、普通のセイルのように三角ではなく、さらにセイルの後ろのほうが大きく張り出していて台形の形をしている巨大なセイル、まさにセイリングで走るために設計されたヨットだった。

そのヨットの最前部には、細長い角がはえていた。その角は、伸縮式で、普段は船内に収められているのだが、追い風の際にスピンネーカーを張るときには、船の最前部に向かって大きく突き出して、その最先端からセイルを張り出せるようになっていた。

丸山は、そのヨットをボートショーで見た瞬間から一目惚れしてしまった。さっそく会場にいたスタッフに注文をして、横浜マリーナに進水したのが、スローライフだった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。