この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第216回
斎藤智
浦賀の駅前は、けっこう人で混んでいた。
海の日、連休の最終日ということもあって、観光客も多かったのだろうが、地元の主婦の夕食のお買い物という人々もけっこう多いようだった。
「今夜、なに食べたい?」
麻美は、佳代に聞いた。
「う~んとね」
佳代は、何が食べたいか、スーパーの店頭で悩んでいた。
「お肉が美味しそうね」
麻美は、お肉屋さんの売り場で、安くて質も良さそうなお肉を見つけた。
「ステーキ良いかも」
麻美の言葉につられて、佳代は返事した。
「それじゃ、ステーキにしようか」
麻美は、お肉屋さんでお肉を買って、それから野菜売り場に行って、それに付け合わせられるお野菜を調達していた。
「本当に船でステーキなんか焼くの?」
隆は、ヨットでステーキなんて、ちょっと驚いて、麻美に聞いた。
「あら、どうってことないわよ。お肉なんて焼くだけでしょ」
麻美は、隆に返事した。
レジでお会計を済ませ、皆でそれぞれ買ったものが入った袋を持って、スーパーを出た。
「少し暗くなってきちゃったね」
「帰りのバス、まだあるかな?」
隆は、少し心配そうに言った。
「私、見てくるね」
軽めの荷物を持っていたルリ子と美幸は、先にバス停まで走っていって時刻表を確かめに行った。
「大丈夫!まだ時間ある!」
美幸は、振り向いて大声で、隆に向かって声をかけた。
隆は、OKという合図を手で返した。
皆が、バス停まで行くと、次のバスが来るまで、まだ少し時間があった。バス停の前には、吉野家のお店があった。
「吉野家があるじゃん」
「吉野家、うちの会社の前にもあるけど、最近ぜんぜん食べてないな」
洋子が、隆に言った。
「俺も。久しぶりに吉野家で食べていこうか?」
「いいかもね」
隆と洋子は、しゃべっていた。
「ちょっと、お二人さん。私たちこんなに今夜の夕食持って歩いているんですけど」
麻美が言った。
「え、また今度いつか食べに行こうかって話してただけだよ」
「あら、そうなの。なんだか今すぐに食べていこうかって雰囲気でしたけど」
「そんなわけないじゃん。船に戻ったら、麻美のステーキ食べれるって言うのに」
隆は、返事していた。
「そういえば、結婚してから、まったく外食しなくなったかも」
バスの中で、隣りに座っている洋子に、隆は話していた。
「そうなんだ。麻美さん、お料理が上手だもんね」
「うん。なんか、麻美がお料理作ってくれると思うと、特に外でごはん食べなくてもいいなって、思ってしまうんだよね」
二日連続の宴会
麻美は、皆の分のお肉を焼いていた。
ラッコのキッチンで、今夜はステーキが食べたいと言っていた佳代のご要望でステーキを焼いているのだった。
お肉に下準備をして焼き始めていた。
その横では、香織がミックスベジタブルなどの野菜を炒めていた。
キッチン前のダイニングでは、ほかのメンバーが野菜を切ったりして、夕食の準備をしていた。キッチンに入りきらないメンバーは、ダイニングにお皿を並べたりしていた。
「中野さんたちは、先にお飲みになっていてください」
麻美は、グラスを出して、パイロットハウスのサロンにいる中野さんたち男性陣に薦めた。
「雪ちゃんも、一緒にお相手してあげてていいわよ」
麻美は、雪にもグラスとお酒を渡した。
そんなにたくさんでお料理しなくても良いので、雪とあけみちゃんは、男性陣と一緒にパイロットハウスのサロンでお酒を飲んでいる。
男性陣といっても隆は、下のキッチン脇のダイニングで、洋子たちと一緒に野菜を切ったりしていた。
お酒を飲まないので、こっちのほうが良いのだ。
焼きあがったステーキから順番に、野菜と一緒にお皿に盛りつけられて、テーブルに出されていく。
中野さんやドラゴンフライのオーナーさんから先にステーキをもらっていた。
「熱いうちが美味しいから、先に食べてください」
麻美が、ステーキを受け取った人は、先にどんどん食べ始めるように言っている。
「隆さんも、ラッコのオーナーなんだけど」
キッチン脇のダイニングに座っていた隆のもとに、一番最後にステーキがやって来たので、洋子は麻美に言った。
「ああ、いいのよ、隆は。最後でも」
麻美は、洋子に返事した。
「そうなの?」
隆が、それを聞いて、麻美に聞くと、
「そうよ。最後でいいのよ」
麻美は、隆にも答えた。
「そうなんだ」
「そうよ。隆だって、別に最後だっていいでしょう?」
「え、うん。別にいいよ」
隆は、麻美に言われて頷いた。
パイロットハウスのサロンでは、ステーキを食べ終わると、そのまま夜の宴会に突入した。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。