SailorsBLUE セイラーズブルー

イルカの群れ

イルカの群れ

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第79回

斎藤智

「なに?イルカがいるの!?」

船内でギャレーの片づけをしていた麻美が、佳代に呼ばれて出てきた。

佳代が、船内にいた麻美のことを、イルカがいるよって呼びに来てくれたのだった。

「うわ!なに、すごい数じゃない」

デッキに出た麻美は、海にいるイルカたちを見て驚いた。

ルリ子がデジカメで写真撮りたいからってイルカに呼び掛けたら、まるで、それに応じたように、沖で泳いでいたイルカたちが、ラッコのほうに近づいて来ていたのだった。

「なんかラッコの側を泳ぐイルカって言葉がおもしろいな」

「そうだね。イルカとラッコが一緒って、ラッコがイルカに食べられっちゃわないかな」

洋子と隆は話していた。

ラッコに寄って来たイルカたちは、嬉しそうにラッコの横を併走していた。中には、ラッコのすぐ真下の船底を、くぐって見せているイルカもいた。

「こんなに近づいてきて、ヨットにぶつからないでくれよって、ルリは、ちゃんとイルカに伝えてくれよ」

隆は、イルカの写真を撮り続けてるルリ子に言った。

麻美は、佳代や洋子と一緒に、ヨットの周りを飛び回っているイルカたちをずっと眺めていた。

「イルカって、こんなに人に慣れているの」

「人というよりも、イルカは船が好きみたいで、船と一緒に並んで泳ぐことって多いみたいよ」

隆は、麻美に聞かれて、答えていた。

結局、イルカたちは、三浦半島の剣崎辺りまで、ずっとラッコと一緒に併走してついてきた。

剣崎の辺りまでやって来ると、イルカたちは、一匹ずつ、またUターンして、最初に出会った辺りに戻っていった。

「バイバイ!元気でね」

イルカたちは、東京湾の入り口に戻って行き、ラッコは、東京湾の内側、横浜マリーナを目指して進んでいった。

ここでイルカたちとは、お別れだ。

バイバイ

「一匹ぐらい、横浜マリーナまで、一緒についてきてくれたらいいのに」

すっかり、イルカのことが気に入ってしまったルリ子は、名残惜しそうにつぶやいた。

「でも、せっかく皆と一緒に暮らしているのに、一匹だけ横浜マリーナに来ちゃったら可哀そうよ」

「そうだよね」

麻美に言われて、ルリ子も納得していた。

ラッコは、マリオネットや海王たちと横浜マリーナに戻っていった。

忙しい日々

もう週末も近い金曜日だというのに、隆は忙しかった。

「うわ、こりゃ、もうダメだな。今日中には終わらないよ」

大島クルージングに行った三連休が明けた後の平日のことだった。

さっきから、大量に積み上がっているダンボールの箱を開けては、中から部品を取り出して、組み立てている隆は、手を休めてつぶやいた。

何十万と入荷してきた商品を、一度ダンボールから出して、アッセンブリー、組み立てて、お客さんのところに送らなければならなかったのだ。

朝から、社員総出でやっているのだが、目の前のダンボールは一向に減ってきている様子がなかった。

「今日中は無理でしょう。今日、時間までやったら明日も頑張ろう」

一緒にやっていた麻美も、手を止めて、隆に答えた。

「明日?明日は土曜日なんだけど…」

「うん。でも、仕方ないでしょう。出てきて頑張りましょう」

麻美は、お休みの日も、出てきて全部終わらせるつもりでいた。

「明日か。」

お休みの日まで仕事をしたくない隆は、明日も仕事と聞いて、ぶつぶつ文句を言っていた。

「まあ、明日は土曜日だから、明日は出てきて、やっても良いと思うけど、明日だけで終わると思うか?」

「そしたら、日曜日もあるじゃない」

「日曜日は、ヨットがあるよ」

「ヨットは、遊びなんだから、お休みするしかないでしょう」

麻美は、隆に言った。

隆は、仕事は残っていれば、するが、ヨットを休んでまでも、仕事をしたくはなかった。そんな隆を、麻美は一生懸命慰めながらも、終わらないときは仕事するように、と説教していた。

「まったく、どっちが社長だかわからない」

麻美は、それでもぐずぐず言っている隆に、思わず笑ってしまっていた。隆が、この会社の社長で、麻美はただの社長秘書のはずだった。

なのに、休みの日の残業を、社長はやりたがらずに、秘書の自分がやるようにとなだめているのだった。

「あ、時間だ」

時間がきて、隆は、仕事の手をやめて帰る準備をし始めた。

「明日も、仕事して終わらせるからね。終わらなければ、日曜もちゃんと会社に来て、仕事するよ。わかった?」

帰る準備をしている隆に、麻美は念を押した。

「はーい」

隆は、麻美に言われて渋々返事をしていた。

隆は、麻美には返事をしながら、もし日曜も休みでなくなったら、洋子たちになんて言って説明しようかと考えていた。

帰り道、そのことを麻美に話すと、

「そんなの正直に、仕事が残っているからと言うしかないでしょう。皆だって、それなら仕方ないねと言うだけよ」

麻美は、隆に答えるのだった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

前へ Page

次へ Page


Copyright © 2014-2023 SailorsBLUE セイラーズブルー All Rights Reserved.

Designed by Yumi Published by 読進社