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賑やかな夕食

賑やかな夕食

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第88回

斎藤智

昨日の館山は、静かな夕食だった。

「中野さん、勝山に来ていたんですか」

隆は、ラッコを港の岸壁に停泊し終わってから、マリオネットの中野さんに声をかけた。

「ラッコさんが、昨日、千葉に行ったって聞いていたので、もしかして勝山かなって思って、昨日来たんだ」

中野さんは答えた。

マリオネットは、昨日のお昼前、ちょうどラッコが館山に向けて出航した直後ぐらいに横浜マリーナに集まって、勝山に来たらしい。

マリーナのスタッフから、ラッコが千葉に向かったって聞いて、勝山だろうって思って、目的地を勝山に決めたらしい。

「それじゃ、今夜も勝山に停泊?二泊するんですか」

「そういうことになるね」

中野さんは言った。

「暁さん、一番で走っていて、とても速かったですよ」

麻美は、中野さんに暁の浮島レースを観戦していたことを報告した。

「暁さんはすごいよね。いつもレースはトップで、若いクルーをたくさん乗せて大変だろうね」

中野さんは、暁のことを感心していた。

「お風呂に行こう」

隆は、ラッコのクルーたちに声をかけて、皆で勝山港から歩いて5分ぐらいのところにある銭湯に向かった。

銭湯で、海の水を洗い落として、さっぱりできるのも気持ち良いが、帰りに勝山の商店街で、夕食の買い出しをするのも目的だった。

「何、食べたい?」

麻美は、小さな魚屋さんの前で、魚を選びながら、皆に聞いた。

ルリ子と佳代は、魚屋の店頭脇にあるバケツの中に入れられたタコに夢中になっていた。タコは、まだ生きていて、長い手をぐるぐると回してルリ子のほうに手を伸ばしていた。

「かわいい♪」

「ぬるぬるしているけど、気持ちいいね」

佳代も、タコの手足を撫でてあげながら言った。

「今夜の夕食は、タコにしようか?」

二人の後ろから、麻美が声をかけた。

「え、食べちゃうの?かわいそうだよ」

結局、タコは買わずに、ほかの魚の刺身を買って、魚屋を後にした。

船に戻って、麻美たち皆は、夕食の準備を始めた。

買ってきた魚の刺身も、お皿に盛りつけてテーブルに出す。

マリオネットのクルーたちも、ラッコのキャビンにやって来て、皆で一緒に夕食作りをして食事した。

昨日の夕食は、ラッコのメンバーだけで静かな食卓だったが、今夜は、マリオネットのメンバーも一緒で、大変、賑やかな夕食となった。

いつものように、隆と洋子、佳代、ルリ子たちは、ラッコのメインサロン、パイロットハウスから一段下がったところにあるダイニングで食事となった。

麻美と雪は、マリオネットのメンバーたちと一緒に、パイロットハウスにあるメインサロンでの食事だ。

麻美たち大人班のテーブルには、ワインやお酒が並べられて、夜も遅くなり時間が経つに連れて、皆は次第に元気になってくる。

反対に、隆たちのテーブルのメンバーは食事だけでお酒は飲んでいないので、ある程度、夜が遅くなってくると眠くなってくる。

「お先に失礼します」

隆たちは、暁のメンバーたちに声をかけると、いつものように先に眠りについた。

「ベッドメイク、ちゃんとできてる?」

麻美は、ギャレー前のダイニングのテーブルを下げて、クッションを敷いて、その上にシーツを敷くと、そこで洋子とルリ子が眠れるように、ベッドメイクをした。

「おやすみなさい」

ダイニングとギャレーの間のカーテンを閉めて、中ではパジャマに着替えたルリ子と洋子が横になって眠りについていた。

ルリ子たちのベッドメイクを終えると、麻美は一番最後部の隆と佳代の寝ている部屋に行き、そこのベッドメイクだ。

「いつも思ってたのですが、ラッコさんでは、バースにちゃんとシーツとか敷いて寝るんですね」

「マリオネットさんは敷かないのですか?」

麻美は、逆に中野さんに聞き返した。

「うちは、特には敷かないね。クッションの上に横になって、毛布をかけて寝るだけ」

「そうなんですね」

麻美は、中野さんに答えた。

「うちも、それでも良いんですけどね。ヨットは、普通みな、シーツなんて敷かずに、そのまま毛布をかけて寝ますよね。寝るときだって、いちいちパジャマになんか着替えないで、普段着のままですよね」

隆は、中野さんに答えた。

「ええ、そんなことしたらクッションが汚れちゃうじゃない。それに、シーツとか敷いて寝なければ、寝てて気持ち悪いでしょう」

麻美は、隆のパジャマを戸棚から出しながら答えた。

「着るものだって、昼間着ていた汚れた衣服よりも、ちゃんとパジャマに着替えた方がぐっすり眠れて良いでしょう」

「なんだそうです」

隆は、麻美の言ったことをそのまま中野さんに伝えた。

「まあ、ヨット毎にそれぞれだから、それも良いのでは」

中野さんは、隆に返事した。

「うちの生活班長が、そう言うので、ラッコではシーツ敷いて、パジャマで寝ることになってしまったです」

隆も、笑顔で中野さんに答えていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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