この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第34回
斎藤智
ラッコは、全てのレース艇がブイを周り終えたのを確認してから、急いで戻って行った。
「ね、もしかして間に合わないじゃない」
麻美は言った。
ラッコは、エンジン全開で全速力で走って、ゴールの場所を目指していた。全てのレース艇がちゃんとブイを周るのを確認してから戻ろうと、ブイのところで少しゆっくりし過ぎてしまったようだ。
気づくと、シリウスは既に最後のコーナーを周り終えて、ゴールラインに向けて走っているところだった。
シリウスがゴールラインに到着する前に、ラッコが行ってゴールのホーンを吹いてあげなければならない。
「ルリ子、間に合いそうもないから、ここからゴールの笛を吹いて、ゴール時間を記録してあげてよ」
隆は、ゴール直前のシリウスの姿を確認しながら、ルリ子に頼んだ。
ルリ子は、目測でシリウスがゴールラインを通過するところを確認して、手に持っていたマリンホーンを鳴らした。
マリンホーンとは、マリン、海用のホーンで、ラッパのお尻部分を押すとパーンって大きな音が出る海での緊急時などに相手の船に知らせるホーンです。横浜マリーナ内のマリンショップにも常備しているので興味のある方は、ご購入ください。
「ゴールラインに本部艇がいないなんて前代未聞だよ」
ラッコがマリーナに戻ると、先に戻っていたシリウスの乗員たちに笑われてしまった。
ゴールしたら、その脇に本部艇がいなくて、遥か後ろ、後方のほうからゴールを示すマリンホーンの音がしたと、横浜マリーナ内のヨットマンの間では、しばらく噂になっていた。
本格的なヨットレースだったら大問題になっていたかもしれないが、そこはクラブレースのため、誰も文句を言う人はおらず、ゴールしたら、その後から本部艇がやって来たと笑い話で済んでいた。
レース後は、横浜マリーナクラブレース恒例のレース参加者全員によるちょっとした小パーティーが、クラブハウス内で開催された。
レースのときは、それぞれ、レースで勝つことだけに夢中になっていたクルーたちも、パーティーの準備では、皆で協力してテーブルを移動したり、椅子を揃えたりしている。
屈強の体をした男性クルーたちは、テーブルの移動など力仕事を担当している。
ラッコの乗員は、女性クルーが多いので、パーティー用の食事の準備、料理を担当している。
男性クルーたちが重いバーベキューセットを倉庫から出してきた。
バーベキューの鉄板に新聞紙とライターで苦労して火を点けた。火が点け終わると今度は、ルリ子たちラッコの女性クルーが切り分けた野菜などを持ってきて、そのうえで焼いている。
レースが得意なヨットの乗員も、そうでないヨットの乗員も、普段いっしょのヨットに乗っていない者同士がパーティーでは、ビールを飲みながら仲良く談笑していた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。