千葉の保田漁港

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第41回

斎藤智

食事が終わると、ラッコの乗員たちの緊張した操船が続いていた。

食事が終わって、いよいよ東京湾を横断するのだ。

ラッコの左右からひっきりなしに、貨物船やら、タンカーやら大型の船が走ってくる。その間を縫って、横断しないと向こう岸の千葉には到着できない。

太平洋横断も大変なことかもしれないが、東京湾横断も、ある意味ではけっこう大変なのだった。

食事が終わって船内からデッキに出て来て、隆がステアリングを握って舵を取る。それを雪や洋子などクルーがサポートする。

「右、1時方向から大型のタンカーが入ってきます!」

洋子が右側から寄って来るタンカーを見つけて、船長の隆に報告する。

今度は左から貨物船がやって来て、左側をウォッチ、確認していた佳代が、隆に報告する。船の場合は、船の前方、後方、左右などを時計に見立てて伝える。例えば、船の左側のことを3時方向と言う。逆に右側を9時、船を中心にして、先頭を時計の12時、1時、2時…と少しずつ左に周って行き、反対側の船の後方が6時、右側が9時と一周するのだ。

「右側から白い大きな船が入ってきます!」

「うわ!あの船、太陽が昇っている」

ラッコの右側、東京湾の外から中に入って来る大型の白い船体が見えた。その白い船体の横腹には、オレンジ色のペンキで大きな太陽の上半分だけが描かれている。ちょうど海から半分だけ太陽が隠れているようで、日の出のように見える。

「旅客船、フェリーだよ。宮崎から走って来たんだ」

隆が皆に説明した。

東京と九州の宮崎の間を結んでいる定期船で、途中、和歌山に寄港してから東京に戻って来たところだった。

その船がラッコの前を通り過ぎ、東京湾の奥のほうに入って行った。

油だらけの汚いタンカーや貨物船が前方を通り過ぎていくところよりも、その白い船体の日の出が通り過ぎていくところを眺めているほうがなんとなく感動的だった。

日の出のフェリーをやり過ごすと、ラッコは東京湾を横断し切った。

隆をはじめとする乗員たち皆は、いちおうにホッとした表情だった。

東京湾を横断し終えると、保田の漁港は、もう目の前だった。漁港の白い建物がもう見えている。特に目の良い佳代は、その建物を誰よりも一番最初に見つけていた。

「おいおい、揺れるぞ!皆、落ちないようにどこかに捕まって!」

隆が叫んで、皆はデッキのライフラインにしっかり捕まって、揺れに備える。小型のモーターボートが、走っているラッコの脇を、ものすごい高速で通り抜けて、保田の漁港に入港して行った。

ヨットは、横からの波に弱いので、小型とはいえ、モーターボートの引き波を受けて、ラッコはぐらぐら揺れていた。

ようやく揺れが収まると、改めてラッコも保田の漁港に向かい、入港していった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。