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進水式

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第116回

斎藤智

中島さんの新艇が、ようやく横浜マリーナのポンツーンに戻って来た。

「遅いじゃない!進水式が始まってしまうよ」

中島さんの娘、美幸が、船から降りてきた父に言った。

「ごめん、ごめん。せっかくベテランの麻美さんが乗ってくれたから、セイリングしてみたくなったんだよ。もっと帆走は、遅いのかと思ってたけど、この船は、意外によくセイリングできるよ」

中島さんは、麻美というよりも、佳代が頑張ってセイルトリムして、海面でよく走っていたときのことを思い出しながら、美幸に答えた。

「ジブの内側にあるインナージブを上げると、けっこうよく走るんだ…」

「ほら、クラブハウスに行くよ」

父親の中島さんは、新艇の初セイリングの様子をもっと語りたそうだったが、娘の美幸のほうは、そんなこと全く興味なく、もっと船に残っていたそうな父親を引っ張って、クラブハウスに導いた。

「私たちも、進水式行こう」

麻美は、佳代を誘って横浜マリーナのクラブハウスに移動した。

中島さんの船のクルーは、船に残って、カラフルな国際信号機をマストに上げていた。

これから進水式で、横浜マリーナの会員の仲間に、新艇をお披露目するので、きれいにデッキなどを飾りつけて、ヨットをお化粧していた。

「あら、どちら様で…。どこかでお見かけしたお顔ですね」

先に、ラッコで横浜マリーナに戻ってきていた隆たちが麻美に言った。

麻美たちが、クラブハウスに行くと、既に隆たちラッコのクルーも来ていて、進水式に参加していた。

隆は、進水式の会場に置いてあった缶ビールを既に飲み始めていた。

「なに、帰りの道は、セイリングもしたんだ」

隆が、麻美に聞いた。

「うん。佳代ちゃんが皆にセイルの上げ方をレクチャーして、上げたのよね」

「見ていたよ。隆さんなんか、セイルが上がるのを見て、まだ真っ白なニューセイルが上がったって興奮していたよ」

ルリ子が麻美に答えた。

「ほら、うちの船の進水式なんだから、お父さんが遅刻してどうするのよ」

美幸は、進水式に遅れてきた父親のことを叱っていた。

「ごめんね、私たちがセイリングさせちゃったからだよね」

「ううん。麻美さんたちのせいじゃないわ。麻美さんは、進水式が何時から始めるって知らなかっただもの。うちのお父さんったら、昨夜からずっと新艇のことで浮かれ過ぎているのよ」

美幸が言った。

「そうなんだ。やっぱ、自分の船がやっと進水したから嬉しいんだよ。許してやろうよ」

隆が、美幸に言った。

「隆も、ラッコが去年進水したときは、私に掛かってきた電話も、電話の間じゅう、ラッコのヨットの話ばかりだったものね」

麻美が笑顔で隆に言った。

遅れてきたヨット

司会を務める横浜マリーナスタッフの村山さんの声で、中島さんの進水式が始まった。

「進水おめでとうございます。オーナーの中島さん、ご挨拶お願いします」

村山さんに言われて、慌てて中島さんは、ステージに立つと、進水式に参加している方々に挨拶をした。

「お父さん、飲んでばかりいないで、ちゃんと皆さんに挨拶して!」

娘の美幸に、ちょうど小言に言われているときに、急に村山さんに呼ばれたので、慌ててステージに移動したのだった。

村山さんは、大学生時代に東京ドームのうぐいす嬢のアルバイトやテレビ局の朝の生番組でレポーターなどをしていたことがあり、はっきりと聞きとりやすい良い声をしている。

「今日は、私の船の進水式にお集まり頂き、ありがとうございます。前の船を売却してから、気づけばほぼ3年近くが経ってしまって、やっと進水までに漕ぎ着けました。今日は感無量です」

中島さんは、皆に挨拶した。

「ここで、うちのクルーを紹介したいと思います。」

中島さんは、自分の船のクルーと家族をステージに手招きした。

「左から里中君。里中君は、去年大学を卒業して、キャノンで営業マンしていて、ヨットは、今回進水したヨットが初めて乗るんだよね」

クルーの紹介が終わって、続いて家族の紹介に移る。

「その横が、うちの妻の幸子です。その隣りが娘の美幸、大学の進学も決まって、悠々自適の高校生をやっています」

「娘の美幸です。今まで父のヨットには、あまり乗ったことなかったのですが、今回のヨットをきっかけに、大学生になったら、ヨットを始めてみたいと思っています。皆さま、ご指導よろしくお願いします」

父に紹介されて、美幸はステージ上で皆に挨拶した。

「しっかりしたお嬢さんだ…」

ステージ上の美幸の挨拶を聞いて、進水式に参加していた皆は、口々に言っていた。

「船の名前は、なんて言うんですか?」

「会場から質問が来ましたね。中島さん、新しい船の船名は、なんて言うんですか?」

司会の村山さんが、中島さんに聞く。

「船の船名は、ビスノーといいます。ビューティーのビに、雪のスノーで、ビスノーです。娘の名前が美幸なので、美のビューティーのビに、ゆきのスノーを付けて名付けています」

中島さんは答えた。

「本当はミユキって名前にしたかったのですが、それはやめてと娘に大反対されまして、それで少し変えてビスノーにしました」

中島さんは、美幸のほうをちらっと見ながら苦笑して、つけ加えていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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