お姉さんがキャプテン

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第221回

斎藤智

「そうなんだ。おもしろかった?」

「うん」

「真理なんか、いつも失敗しているよね」

言われた真理のほうも、特に失敗を恥ずかしがるわけでもなく、笑顔で笑っている。

麻美と子どもたちは、ラッコのデッキ上にいた。

麻美たちは、お昼のお弁当を食べ終わって、いまはデッキの上で座って、楽しそうにおしゃべりしていた。

「ほら、喜一。おまえは、こっちの船だよ」

先生がやって来て、ラッコのデッキにいた喜一と呼ばれた男の子のことを呼んだ。

「ええ、やだ。お姉さんのヨットに乗りたい」

喜一は、先生に言った。

「そんなこと言われても、仕方ないだろう。皆、それぞれ乗る船が違うんだから」

先生は、喜一のことをラッコの船から下した。

「海の上で会いましょう」

麻美が、船から下されてしまった喜一に声をかけた。

「海で会えるの?」

「会えるよ。どの船も皆、同じところを走るからね」

麻美が答えた。

「おいら、お姉さんの船見つけたら、手をおもいきり振るね」

喜一は、麻美に手を降ってみせながら、言った。

「うん。〝おいら〟も、手を振り返すね」

麻美は、笑顔で、喜一の口まねをしながら答えた。

ほかのラッコにいた子どもたちも、それぞれ自分の乗る船に移動した。

本来、ラッコに乗る予定になっていた子どもたちだけは、ラッコのデッキ上に残っていた。

その後、ラッコに一緒に乗る予定の先生も、ラッコに同乗して出航になった。

「よし、出航しようか」

隆がラッコのメンバー皆に言った。

洋子が、ラッコがポンツーンに繋がれていたロープを外して、ラッコは海に出航した。

隆がデッキのステアリングを握っていた。

「なんで、お姉さんの船なのに、お姉さんがハンドルを握っていないの?」

「お姉さんは、運転しないの?」

子どもたちが、麻美に聞いた。

「え、どうしてだろうね?」

麻美は、子どもたちの頭を撫でながら、笑顔で答えた。

「お姉さんの船だから、お姉さんは運転しないのよ」

洋子が、子どもたちに言った。

「え、そうなの?なんで」

子どもたちが今度は、洋子に聞いた。

「うん。お姉さんの船だから、お姉さんは乗っているだけなのよ。代わりにお姉さんの部下が、運転はするの。お姉さんは、運転しなければ、美味しいもの食べたり、ジュース飲んだりできるでしょう」

「そうか!うちのお父さんの車も、いつもお父さんが洗ったり、きれいにしたりしているけど、車に乗るときは、いつもお父さんじゃなくて、お母さんが運転してる」

「そうでしょう」

洋子が、子どもたちに言った。

「お姉さんの召使いなの?」

子どもが、ステアリングを握っている隆の方を指しながら麻美に聞いた。

「え?」

麻美は、その子のほうを向いた。

「そう、そうなのよ。ほら、部下の隆、ちゃんと運転しなさいよ」

麻美は、ステアリングを握っている隆に向かって、命令してみせた。

「はい、了解しました!麻美キャプテン」

隆も、笑顔で麻美に答えていた。

お姉さんが運転手

「おもしろかったね。今日のセイリングは楽しかった!」

麻美が、帰りの車の中で運転しながら言った。

「かわいかったね」

後ろの席に座っている香織も言った。

「麻美さん、子どもが好きだよね」

「うん。かわいいもの」

麻美は、ルリ子に言われて答えた。

「本当に、今日のセイリングは、麻美のためのセイリングだったな」

「そうかも」

洋子も答えた。

「ええ、子どもたちのためのセイリングでしょう」

麻美が、隆の言葉を訂正した。

「でも、麻美さんも、子どもたちと乗れて、すごく楽しそうだったよ」

ルリ子が言った。

「隆さん、麻美さんの召使いだものね」

佳代が、セイリングの時を思い返して笑った。

「本当だよな、麻美オーナーのために頑張って、ステアリング操作してたし」

隆が言った。

「じゃあ、今は麻美さんが、隆オーナーのために車を運転しているんだね」

「ああ、そうだね。もしかして運転手付きかな」

洋子に言われて、隆はちょっと偉そうに、助手席で腕を組んで、背もたれに寄りかかっていた。

「そうね、では、隆オーナー。おうちに直行でいいですか?」

「うん、頼む」

運転している麻美に言われて、隆は、助手席で満足そうにしていた。

「でも、その前に、皆さんのお宅に立ち寄らさせてくださいね」

そう言って、麻美は、後ろの席の洋子たちの家を順番に周って、家まで送り届けていた。

「それじゃね」

「お疲れさま、バイバイ」

洋子の家の前で、洋子を車から降ろして別れた。

洋子の家のちょうど目の前に、大きなコンビニがあった。

「洋子ちゃん家って、すぐ目の前にこんな大きなコンビニがあるのね」

「うん。洋子ちゃん、お料理ほとんど家でしないで、コンビニでばっかお弁当買っているって言ってたもの」

佳代が言った。

「コンビニ弁当も最近のは、よくできているけど、あまり体に良くないんじゃないかしら」

麻美が言った。

「楽は、楽そうだけどね」

「うん、だからお嫁に行けないとか」

「そうかも」

佳代が、隆の言葉に少し笑ったが、麻美は、

「隆、そういうこと言わないの」

隆のことを叱っていた。

「そういえば、家に牛乳が無かったな」

コンビニを見て、思い出したように麻美が言った。

「私、車を見ているから、ちょっと買ってきてくれる」

麻美は、お財布から牛乳代を隆に渡しながら、言った。

「なんか、隆オーナーとか持ち上げられながら、しっかり使われているような・・」

隆は、ぶつぶつ言いながら、麻美から受け取った小銭を持って、コンビニに牛乳を買いに行った。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。