デッキで朝食

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第214回

斎藤智

「なんで、表で食事しているの?」

デッキに朝ごはんの準備をしているルリ子に隆が聞いた。

「雪ちゃんがまだ寝ているから」

ルリ子は、皆のお皿をデッキに出してあるテーブルに並べながら答えた。

朝、起きたら雪がパイロットハウスで寝ていたので、びっくらポンしていた麻美以外の皆だった。

「はい、トーストあるよ」

麻美は、トーストを皆に渡していた。

昨夜は遅かったので、マリオネットも、あけみさんのところも、まだ起きてきていないようだ。

それで、ラッコで一緒に寝ていた美幸も、ラッコで一緒に朝食をとっていた。

「雪って、まだ寝ているんだ?」

隆は、麻美に渡されたヨーグルトを食べながら聞いた。

「うん。昨夜、遅かったからね」

麻美は答えた。

「いったい何時に寝たの?」

「何時だろう?3時は過ぎていたかな」

麻美は、昨夜寝た時間を思い出しながら答えた。

「3時!ついさっきじゃん」

洋子が、麻美の言葉に驚いていた。

「それは、雪、起きれないよね」

隆が答えた。

今、ラッコのキャビンの中で寝ているのは、パイロットハウスのサロンベッドで寝ている雪だけだった。

あと、ほかのメンバーは皆、起きてきていた。

「朝起きたら、雪ちゃんがパイロットハウスで寝てたから、起きないようにデッキで食事になったんだよね」

香織が麻美に言った。

「うん。でも、この時期は暖かくて、朝はデッキでの食事が気持ちいいわよ」

「本当だね」

デッキで目玉焼きとベーコンそれにフルーツ入りのヨーグルトを食べていると、前に停まっているヨットからあけみちゃんたち夫妻が起きてきた。

「おはよう、早いわね」

昨夜遅かったあけみたちも、まだ眠そうだ。

あけみたちも麻美から薦められたトーストとヨーグルトを食べていた。

「ね、麻美ちゃんは眠くないの?」

洋子は、麻美のところに来て、聞いた。

「うん、少し眠いかな」

「麻美ちゃんだって、昨夜遅かったんでしょ」

「だいじょうぶよ」

麻美は答えていた。

「麻美は出航したら、ベッドで寝るから」

隆が、あけみに言った。

「そう。私、どうせセーリング中は特にすることないし」

麻美も答えていた。

皆が食べ終わるころになって、マリオネットのメンバーも起きてきた。

そして、最後に雪も起きてきた。

麻美は、キッチンに行くと、後から起きてきた人たちのために朝の目玉焼きとベーコンを焼いていた。

朝のお昼寝

「よし、出航しようか?」

隆が皆に言った。

舫いを外し、フェンダーを外して、ラッコは三崎港を出港した。

本日の目的地は、浦賀にあるヴェラシスマリーナだ。

マリオネットも、あけみちゃん夫妻のドラゴンフライも一緒についてくる。

三崎港から浦賀港までの航海なので、本日の公開は距離的にも時間的にも短いものになりそうだ。

三崎港を出ると、隆はステアリングを雪に任せて、自分は後ろのデッキでのんびりしている。

「きょうは浦賀までだから、すぐに着けそうだよな」

「こういうクルージングものんびりできていいよね」

隆と洋子は、話していた。

「そういえばさ、会社の仕事どうなったの?」

「それが、いろいろと結局物入りで、後から経理に提出したら大変だった」

「会社の経理は、支出については厳しいもんね」

二人は、ヨットとぜんぜん関係のない洋子の会社であった何かトラブルの話をしていた。

こうしてのんびり乗っていられるのも、航海の時間に余裕があるからだろう。

「ねえ、隆」

麻美が側に寄ってきて、小声で隆に話しかけてきた。

「ちょっと、ごめんね」

「ううん。だいじょうぶ、たいした話もしてないし」

麻美が、二人の話に割って入ってしまったので、洋子に謝っている。

「で、どうしたの?」

「私、少し中で寝てきてもいいかな」

「どうぞ」

隆は、笑いながら答えた。

朝食のときの話が、そのまま現実になった。

「昨夜は遅かったんだ?」

「うん。3時過ぎ、中野さんたち盛り上がっちゃって」

麻美は苦笑していた。

「佳代ちゃん、雪ちゃんとステアリング代わってあげてよ」

麻美が言った。

「え、だいじょうぶだよ」

雪が麻美に言うと、

「雪ちゃんも、ぜんぜん寝てないでしょ。少し寝ないと美容の大敵よ」

「そうか、私、美容ぜんぜん気にしないからね」

雪は、佳代にステアリングを代わってもらうと、麻美と一緒にキャビンの中に入った。

雪は、いつもは、洋子たちが寝ているキッチン前のダイニングのテーブルを下ろして、そこで眠りについていた。

麻美は、キッチンとダイニングの仕切りに付いているカーテンをしっかり閉めてあげた。

ダイニングの中は、仕切りのカーテンを閉めると、寝るのにちょうどいいぐらい真っ暗になっていた。

麻美も、後ろのオーナーズルームに入ると、そこのベッドで眠りについた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。