8月のビールパーティー

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第68回

斎藤智

ラッコのメンバーは、朝から横浜マリーナに集まっていた。

今日は、横浜マリーナ恒例のビールパーティーの日。

しかも、開催時期が8月の終わりということもあって、今年最後のビールパーティーになる。

その幹事を、ラッコのメンバーが担当することになっていたのだ。

今日も、真夏のいい天気で、ほかの会員たちは、自分たちのヨットに乗って、海に出ていた。

本当は、ラッコのメンバーたちも、自分たちのヨットを出したかったのだが、幹事なので、マリーナに残って、朝からビールパーティーの準備をしていた。

「バーベキューセットを広げよう」

隆や雪で、バルコニーの植木などを片付けてから、倉庫からバーベキューセットを持って来て組み立てている。

麻美や佳代、ルリ子たちは、クラブハウスの調理場内で、ビールパーティーで食べるお料理を作っている。

いつも、ヨットに乗るときは、ジーンズなのに、その日のルリ子は、ロングスカートを着ていた。

「ルリちゃん、可愛いじゃない」

麻美に言われて、ルリ子は嬉しそうに笑顔になった。

特に正装してきたわけではなく、普段着のスカートを着てきただけなのだが、普段がジーンズが多いので、スカートというだけで、なんとなくおしゃれしてきたように見てもらえるのだった。

「お寿司をまんなかに置こうか」

宅配で横浜マリーナに運ばれてきた寿司のお皿を、テーブルの中央に置いた。宅配で運ばれてきたといっても、横浜マリーナのすぐ隣りのショッピングスクエア内にある寿司屋さんから届けてもらったものだ。

「おお!きれいに飾られているな」

外でバーベキューの準備を終えた隆たちが、室内に入って来て、テーブルの上の盛りつけをみて叫んだ。

「なんか、もう飲みたくなちゃうね」

隆が、椅子に腰かけて、テーブルの上のビールの瓶に手を伸ばしながら言った。

「まだ、だめよ」

麻美が、隆からビールの瓶を取り上げた。

お昼を少し過ぎたぐらいに、ヨットで海に出ていた人たちが次々に戻って来た。

いつもならば、お昼はどこか出先で食べてきてから横浜マリーナに戻って来るのは夕方なのだが、今日はビールパーティーがあるということで、早めの帰還だった。

「それでは、乾杯!」

皆が戻って来て、それぞれのヨットの片付けが終わると、クラブハウスに集合して、いよいよビールパーティーが始まる。

司会、進行役のスタッフが理事長を紹介して、理事長の乾杯の挨拶でビールを飲んでビールパーティーは始まった。

夕方から始まるビールパーティーならば、飲みから始まるのだろうが、皆は午前中、ヨットに乗って戻ってきているので、お腹が空いていて、バルコニーのバーベキューが一番人気だった。

隆や雪は、お肉を焼くのに、大忙しだった。

おめでとう!世界一周

9月の最初の日曜日は、残暑の残る快晴だった。

ラッコのメンバーは、いつもの日曜日のように、朝早くから横浜マリーナに集合していた。

いつもならば、ヨットを出す準備をして、海に出かけるのだったが、その日は、マリーナに残って、ヨットの整備をしていた。

9月は連休が多く、次の連休には、また大島にクルージングに行くことになっていた。

それで、今日は、そのためのクルージング準備を兼ねたヨットの整備の日になったのだった。

「毛布を入れておく場所あるかな」

麻美は、大きな毛布を持ちながら、船内のロッカーを開けて、中の空き場所を探していた。

9月になってくると、だんだんと夜は寒くなってくるので、毛布がないと眠れないだろうと家から持って来たのだ。

「オイルの交換しようかと思ったけど、まだきれいだからいいか」

隆と洋子、雪は、エンジンルームを開けて、エンジンを覗きながら話している。整備といっても、ラッコは、進水してまだ半年しか経っていないので、それほど悪い個所も無かった。

デッキだって、毎週ヨットを出し終わった後に、皆できちんとデッキブラシで水洗いしているので、それほど汚れていない。

午前中、少し掃除をしたら、もう殆どやることが無くなってしまっていた。 皆は、お昼を食べた後、横浜マリーナ内をぶらぶらと歩き回っていた。

岸壁の間を歩いているカニや水面に浮かんでいるクラゲを眺めていたりしていると、32フィートぐらいの木造のヨットが入港してきた。

見慣れない船だった。

そのヨットは、2本マストのヨットで、インド洋とかを走っていたら、まるで海賊船と見間違えてしまうようなヨット、帆船だった。

ヨットは、横浜マリーナの大型クレーンに接岸すると、スタッフがクレーンで上架していた。

「こんにちは」

隆が、ヨットに乗っていた男性に声をかけた。

ヨットには、男性のほかに、もう一人女性と犬が一匹同乗していた。

三人は、そのヨットをヨーロッパ、イギリスで中古で購入して以来、世界を巡っているそうだ。ヨーロッパからアフリカ、アメリカへと渡り、オーストラリア、ニュージーランドに行き、その後は南太平洋を7年間ずっと航海し続けているそうだ。

今回、日本に寄ったのも、帰国したわけではなく、世界周航中の一国に過ぎないそうだ。

あと何年、何十年かかるかわからないが、ゆっくりと巡って、出発したイギリスの港に戻るつもりらしかった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。