クルーザーでのベッドタイム

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第127回

斎藤智

これから女性陣の花火大会を始めることになった。

「雪ちゃんも、花火の打ち上げに参加しているのね」

麻美は、ロケット花火の打ち上げに、男性陣に混ざって一緒になって花火を打ち上げている雪に気づいた。

「見ていると、私たちも花火やってみたくなるね」

麻美に言われて、花火を打ち上げている雪に気づいて、洋子も言った。

「私たちもやろうか?」

「でも、ロケット花火は、ちょっと恐いな」

洋子が、ロケット花火の打ち上げを見て、不安そうに答えた。

「ほら、線香花火もあるよ」

麻美は、はじめにルリ子が選んで買ってきた花火の袋を手に取りながら言った。

「うん。やろう!」

佳代が言って、女性陣も花火をやることになった。

余っているバケツを海に持って行って、水を汲んでくると、アリアドネの軒下の少し離れたところで、花火を始めた。

「大きな花火もきれいだけど、線香花火も可愛くていいわよね」

麻美は、ルリ子たちがやっている線香花火の灯りを見ながら言った。

「あ、線香花火か。いいな」

隆が、麻美たちのところにやって来た。

「隆は、向こうで皆と大きな花火をしてきなよ」

「俺だけ、仲間はずれかよ」

隆が言うと、洋子が手に持っていた線香花火を隆に手渡した。

「こっちのほうが、安全でいいよな」

隆は、洋子からもらった線香花火をしながら答えた。

「隆ったら、女の子みたい。雪ちゃんのほうがよっぽど男らしいわよね」

麻美は、線香花火をする隆と向こうでロケット花火を打ち上げている雪の姿を見比べながら、笑った。

ロケット花火は、横浜マリーナのショッピングスクエアのほうで見ている観客からも見えているのだが、麻美たちのやっている線香花火は小さく、艇庫の影になっていてショッピングスクエアからは見えなかった。

「洋子のその線香花火で最後だ」

洋子が、持っていた最後の線香花火をやって、花火大会はお開きになった。

「さあ、もう時間も遅いし、寒いから船に戻って寝ましょう」

後片付けをすると、艇庫の中のヨットに戻って就寝になった。

それぞれの所属するヨットのキャビンに戻ると、今夜はそこで就寝だ。

普段、食事するのに使っているテーブルの高さを下げて、椅子の高さと同じにすると、そのテーブルの上にクッションを乗せる。

そうすると、椅子とテーブルが同じ高さで広いベッドの誕生だ。

昼間はダイニングセット、夜間はベッドルームと狭いヨットのキャビンは、機能的に作られている。

「電気毛布あるから、使ってね」

麻美が家から持ってきた電気毛布を皆に渡した。

ヨットのバッテリーだけでは、電気毛布を使うと、バッテリーが上がってしまうが、陸電、横浜マリーナの艇庫の中に設置された電源コンセントに、ヨットに付いている電源コードを差せば、普通の家庭と同じように電気毛布など家電製品が使えるようになる。

麻美ママ

麻美は、キャビンの中を周って、皆のことを確認していた。

「寒くない?大丈夫?」

フォアキャビンでは、雪が一人で寝ていた。

中央下部のダイニングでは、テーブルを下ろして、ベッドにして、ルリ子と洋子が寝ていた。

中央パイロットハウス内のサロンを越えて、最後部のオーナーズルームには、隆と佳代が寝ていた。

オーナーズルームのベッドは、標準のナウティキャット33だと、左側にダブルベッドが備わっているだけだ。

が、ラッコのオーナーズルームは、標準仕様を多少変更して、ダブルベッド下部に手前に引き出せる板が付いていて、その板を通路いっぱいまで引き出すと、3人までが寝れるトリプルベッドに変身する。

「佳代ちゃん、寒くない?隆は?」

麻美は、一番奥側に寝ている隆と真ん中の佳代に声をかけた。

その一番手前に麻美が寝るつもりだった。

板を引き出せば、三人楽に寝れるのだが、佳代が小柄なので、板を引き出さなくても、ダブルベッドの状態で、隆と麻美の中央に、佳代が楽に寝れた。

「あたしも、ここで寝ようかな?」

隆とおしゃべりしていた洋子が、ポツリと麻美に言った。

「いいよ。一緒に寝る?」

麻美が下部の板をいっぱいまで引き出してみせながら答えた。

「板が出るんだ」

「そうよ。こうすれば、洋子ちゃんも一緒に並んで寝れるでしょう」

奥から隆、佳代、洋子と横になっても、さらにその一番手前に麻美が寝れる場所があった。

麻美が一番手前側に横になった。

トリプルならぬ、フォースベッドだ。

普通サイズの大人4人だと、さすがに狭いだろうが、小柄な佳代が間にいるので4人でも余裕だ。

「大丈夫?風邪ひくといけないから、ちゃんと電気毛布かけてね」

麻美が、洋子の肩の上まで毛布を上げた。

「はーい、お母さん」

洋子が笑顔でふざけて答えた。

「お母さん、私もお布団かけて」

佳代も、麻美に甘えてみせた。

「はーい、佳代ちゃんもちゃんとかけなさい」

洋子と佳代に、お母さんと言われてまんざらでもない嬉しそうな表情をしながら、麻美が答えた。

「麻美さんが、お母さんだったら、隆さんは、お父さんだね」

「そしたら、洋子ちゃんは、私のお姉さんだね」

洋子と佳代が話している。

「本当に、洋子ちゃんと佳代ちゃんが、娘だったら良い子だし嬉しいな」

麻美が、二人に言った。

「私、下に弟しかいないから、佳代ちゃんが妹だったら嬉しいかも。でも、上にお姉さんも欲しいかも」

実際には、一番上で長女の洋子が言った。

「大丈夫だよ。洋子ちゃんの上には、ルリお姉ちゃんが、向こうの部屋にいるから」

佳代が答えた。

「そうか!それで、一番向こうの部屋には、一番上の雪お姉ちゃんもいるしね」

洋子が笑顔で答えた。

「おいおい、そしたら、俺は、いきなり四人の子持ちになるのか」

隆が、二人の会話を聞いて苦笑した。

「雪ちゃんは、お姉ちゃんでなくて、お兄ちゃんかな」

「へへ、そうかも!」

洋子は、雪が船底掃除などしている男っぽい姿を思い出しながら、笑った。

「雪お兄ちゃんか!?似合うかもしれないけど…」

麻美が、洋子に言いながら

「でも、明日の朝、雪ちゃんに洋子ちゃんが雪お姉ちゃんじゃなくて、雪お兄ちゃんって言っていたこと話しちゃおうかな」

「うん、いいよ」

二人は笑った。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。