ビスノー・クルージング

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第119回

斎藤智

進水式の次の日曜日、隆たちラッコのメンバーは、いつものように横浜マリーナに集まっていた。

いつものメンバーに、中島さんの一人娘、美幸も一緒だった。

美幸は、もうすっかり麻美や佳代たちとも仲良くなってしまっていたのだった。

「私も、ビスノーじゃなくてラッコに乗りたいな」

ほかの皆が、ラッコの出航準備をしているのを見て、美幸が言った。

中島さんも、横浜マリーナに来ていて、進水したばかりのビスノーをデークルージングに出航させるつもりでいた。

娘の美幸は、父の船も出航するので、父の船に乗るしかなかった。

「俺は、ビスノーに乗ってみたいな」

先週、麻美と佳代は、ビスノーに乗ったのに、自分は乗れなかったことを、まだ残念に思っているようだ。

「それじゃ、一緒に乗ろう!」

隆の言葉を聞いて、美幸が隆に言った。

「だって、お父さんと二人だけでヨットになんか乗りたくないよ」

美幸が言った。

「ビスノーって、乗員は、中島さんと美幸ちゃんだけなの?」

「もう一人、長浜さんってクルーの男の人がいるけど…三人だけ」

「そうか。じゃあ、今日は、ラッコを出すのやめて、皆でビスノーでクルージングに出ようか?」

隆が提案した。

「うん!それがいいよ」

ルリ子も、雪も、先週ビスノーに乗り損ねているので、一度乗ってみたいので賛成した。

「私が、中島さんのところに行って、皆でおじゃましてもいいか聞いてくるよ」

麻美は、ビスノーのほうに走って行った。

麻美は、ビスノーの置いてある艇庫の前で、しばらく中島さんを話をしていたが、隆たちのほうに向かって、手を上げて、大きく丸とOKの合図をした。

皆は、その合図をみて、ラッコを降りると、ビスノーの艇庫に移動した。

中島さんの前のヨットは、横浜マリーナの前の海面に、海上係留していたが、新しいビスノーからは、陸上の艇庫が、ひとつ空いたので、艇庫保管に変更したのだった。

横浜マリーナには、海上係留と陸上の艇庫内に保管する二通りがあって、陸上保管のほうが、海上係留よりも、毎回毎回、船を出すときにクレーンの上げ下ろし代が掛かり、保管料もはるかに高かった。

費用は、高いのだが、愛艇が大切に保管される陸上保管のほうが、会員に人気があって、常に順番待ちの状態だった。

「今日は、風があって気持ちいいな」

ビスノーは、美幸たちビスノーの普段の乗員以外にも、隆たちラッコの皆も乗せて、横浜港の海の上を走っていた。

ロングクルージング

ビスノーは、風を受けて、ゆっくり、のんびりどっしりと走っていた。

ビスノーは、ロングキール、船底に大きな全長いっぱいまで伸びたキールを付けていて、その長いキールの後ろにぴったしくっ付く形で舵を取るためのラダーを備えていた。

ほかのヨットよりも、背の低い太いマストに、メインセイル一枚、ジブを2枚上げている。

ビスノーの装備は、ロングクルージング、世界一周や南の島へ長期の旅をするのに最適なヨットの装備だった。

「いいな。このどっしりとしたセイリングの走り」

隆は、麻美に言った。

「ヨットレースとかでは、こんなゆっくりした走りをしていたら、ぜったいに優勝などできないけど、南の島とかを、のんびり自由に旅するには、この走りが快適な旅を実現してくれるんだ」

隆は、まるで自分の船のように、ビスノーの船を自慢していた。

「隆って、南の島をヨットで旅する話好きだね」

麻美は、答えた。

「いっそ、会社なんかやめて、ラッコで南の島に旅立ってしまったら?」

「俺が今、会社をやめたら、あの会社ってどうなってしまうんだよ」

「なんとかなるわよ。隆一人ぐらいいなくなったって、あとの社員皆で」

麻美に言われて、社長の隆は、ちょっとショックだった。

「え、南の島に行くの?それじゃ、私も着いて行く」

ルリ子が言った。

「ルリちゃんも、会社あるでしょう?会社、どうするのよ」

「会社は、私なんて別に社長でもなんでもないし、本当にいつでもやめられるもの」

「そうか。じゃ、俺と一緒に、ラッコで南の島に旅立とうか」

「うん!」

ルリ子と隆が話していた。

「ルリちゃんも行くのなら、私も行こうかな」

佳代が言った。

「私も行こう!」

洋子も言った。

「じゃあ、皆で行こうか」

隆たちは、勝手な想像をしていた。

「麻美ちゃんだけ、お留守番ね」

「あら、いじわる。皆が行くんだったら、私も誘ってちょうだいよ」

ラッコのメンバーたちが、ビスノーのデッキ上で、勝手な想像で話していると、

「私も行く!」

美幸が、その話に加わって来た。

「それじゃ、ビスノーと二艇で行くか?」

「いやだ、お父さんと二人だけで行くのなんか。私も皆とラッコに乗って行くよ」

美幸が隆に笑顔で答えて、笑っていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。